体性幹細胞は、再生医療や細胞移植において有用な細胞である。特に女性の場合には、子宮内膜組織や医療廃棄物である月経血からの幹細胞調製が注目されている。しかし、子宮に由来する細胞の採取には加齢による年齢制限があり、将来的には若い時期の幹細胞保存も視野にいれた対応が必要とされる。その為には「加齢による幹細胞の老化」を意識し、幹細胞そのものの性質を理解することが不可欠と考える。申請者らは、「多様な糖鎖は、分化、増殖、老化の状態を反映する」という事実に鑑み、年齢に伴う幹細胞の糖鎖変化に焦点を絞った解析を行う。その結果より、幹細胞の質を担保するマーカー糖鎖を特定し、その抗体による幹細胞の分取・保存を行った。また、ES細胞を含む多能性幹細胞についても老化と糖鎖発現との関係を検討した。特に、子宮内膜組織や月経血由来の幹細胞において、加齢に伴う糖鎖発現の変化の全体像を、網羅的レクチンマイクロアレイ解析により検討した。また、特定の糖タンパク質や糖脂質の糖鎖が幹細胞の質を担保するバイオマーカーの可能性について検討した。さらに、鍵となる糖鎖に対する抗体を用いて、良質な幹細胞の検出方法を確立し、抗体カラムによる幹細胞の分取・保存の手法を検討した。また、新たに体細胞から作成したiPS細胞に関しても、細胞老化の影響について、糖鎖発現との関係から解析を実施した。容易に入手できる子宮内膜組織や、医療廃棄物である月経血から体性幹細胞やiPS細胞を調製する手法は、今後、再生医療や細胞移植が身近な治療法として定着普及するために、重要な技術になると考えられる。申請者らの研究により、特定の糖鎖の発現が上記の子宮由来の細胞で明らかになれば、造血幹細胞におけるCD34(抗原は糖鎖である)と同様に、その抗体は良好な幹細胞の質を担保するマーカーとして使用することが可能となる。
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