本研究では、妊娠前糖尿病が臓器錯位を伴う先天性心疾患を引き起こすメカニズムを解明することを目指した。これまでにストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスでは心臓ルーピングと胚ターニングの左右性が異常になり、左側側板中胚葉特異的なPitx2発現が消失すること、また、高濃度グルコース全胚培養でも同様に左側側板中胚葉におけるNodal、Pitx2発現が消失することを明らかにしてきた。平成27年度は全胚培養の系を用いて、側板中胚葉のNodal発現が消失するメカニズムを解析した。左側側板中胚葉におけるNodal発現は、ノードのNodalによって誘導される。高濃度グルコース培養胚(高グルコース胚)の側板中胚葉ではNodal応答能に問題がないことが、Nodal異所発現の実験から示唆された。そこで、ノードにおけるNodal活性制御因子に着目したところ、Nodal及びGdf1発現が特に減弱していることを見出した。これに一致して、ノードのNodal活性が激減することが、Nodalシグナルを担うSmad2のリン酸化状態で示唆された。従って、高グルコース胚側板中胚葉におけるNodal発現の消失は、ノードNodal活性の激減によって説明できる。さらに、高グルコース胚のノードではNotch intracellular domain (NICD) に対する免疫染色の蛍光強度が弱くなることから、Notchシグナルが抑制されることが示唆された。ノードにおけるNodal及びGdf1発現はNotchシグナルによって誘導されるため、高濃度のグルコースはNotchシグナルを抑制し、その結果、左右軸の確立を阻害することが示唆された。左右軸の異常は心臓ルーピング及びその後の心臓形成に影響を及ぼし、このことがヒト妊娠前糖尿病における先天性心疾患発症の原因の一つである可能性が示唆された。
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