研究実績の概要 |
これまでの研究から、α7ニコチン受容体は、炎症に関わっていることが知られているが、うつ病との関連は判っていない。今回、α7ニコチン受容体遺伝子欠損マウスを用いて、うつ病の病態におけるα7ニコチン受容体の役割を調べた。成熟した雄性野生型マウスおよびα7ニコチン受容体遺伝子欠損マウスを用いて、うつ病の行動評価(運動量、尾懸垂試験、強制水泳試験、1%ショ糖飲水試験)を行った。さらに、脳の各部位における脳由来神経栄養因子(BDNF)量をウェスタンブロット法を用いて測定した。 α7ニコチン受容体遺伝子欠損マウスは、血液中の炎症性サイトカインが野生型マウスと比べて有意に高く、炎症を呈することが判った。またα7ニコチン受容体遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較して、尾懸垂試験および強制水泳試験における無動時間が有意に長かった。また1%ショ糖飲水試験においても、遺伝子欠損マウスの1%ショ糖の飲水量の割合が有意に低く、アンヘドニア症状を示した。さらに、遺伝子欠損マウスの側坐核におけるBDNFの量は、野生型マウスと比較して、有意に高かったが、他の部位では差が無かった。また、BDNFの受容体であるTrkB拮抗薬ANA-12は、抗うつ効果を示したが、TrkB作動薬7,8-dihydroxyflavone (DHF)は抗うつ効果を示さなかった。 以上の結果より、α7ニコチン受容体遺伝子欠損マウスは、側坐核のBDNFの増加により、うつ症状を引き起こしている可能性が示唆された。
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