中途覚醒型不眠の生物学的背景は未解明であるが、レム睡眠発現異常が基盤として想定される。 本研究では過眠症群352例(ナルコレプシー229例、近縁過眠症123例)と対照群312例の主観的および睡眠脳波上の中途覚醒回数と関連する指標について横断的な探索と解析を行った(過眠症群の156例と116例はPSGとMSLT検査結果が利用可能だった)。予備検討に基づき中途覚醒頻度に関連する代謝指標として、脂肪酸代謝関連遺伝子型と長鎖脂肪酸β酸化の律速酵素CPT1の活性指標(C0/(t[C16]+t[C18]))に注目して解析した。 中途覚醒と関連する臨床症状として、年齢および睡眠薬服用で増加、過眠症群ではレム睡眠抑制作用をもつ三環系抗うつ薬(TCA)服用および夢・寝言や夜間摂食の頻度と関連した。MSLTでの入眠時レム睡眠期の発現回数は中途覚醒頻度と強い関連を示し(p=.002)、レム睡眠潜時は中途覚醒頻回群で5.5分→2.7分と顕著に短縮した。遺伝因に関しては、対照群では中途覚醒回数とCPT1B多型(p=.043)とHLA(p=.010)が関連し、ナルコレプシーと同じHLA遺伝子型をもつ健常者では睡眠持続性が低下傾向にあることが確認された(年齢性別と睡眠薬服用を調整)。またCPT1B遺伝子型(活性低下)が、特に肥満傾向の健常者で中途覚醒に関わる可能性が示された。過眠症群では、中途覚醒頻度とHLA遺伝子型は関連したが、予想に反して脂質代謝関連遺伝子の多型とは関連がみられなかった。脂肪酸代謝活性については、CPT1活性が過眠症特異的な低下を示し、過眠症のリスクを1.4-1.6倍高めることが判明した。また過眠症群における中途覚醒回数はCPT1活性指標と強い関連を示し、年齢性別BMIとTCA服用を調整した後も、関連が確認された(p=.074)。一方対照群では中途覚醒頻度が元来低くCPT1活性との関連はなかった。 脂肪酸代謝異常は、過眠症において中途覚醒頻度およびレム睡眠発現異常の双方の病態基盤として存在しうることが示された。
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