本研究は、遺伝子転写後調節に対する放射線の影響を明らかすることを目的としている。近年、遺伝子発現過程においてmicroRNAやRNA結合蛋白による転写後調節(Post-transcriptional control)の重要性が明らかになっているが、放射線がこの転写後調節ステップに与える影響については方法論の欠如から十分な研究はなされていない。そこで、転写後調節を受ける遺伝子(被転写後調節遺伝子)を網羅的に解析できる新規方法を開発し、多能性・体性幹細胞において放射線により影響を受ける被転写後調節遺伝子群を体系的に同定することにより、放射線治療および防御における新しいターゲット遺伝子を探索する。新規に開発した被転写後調節遺伝子解析法は、レトロウイルス・ベクターを基本骨格としGFP遺伝子の下流に3’UTR領域を含む遺伝子断片をライブラリーとして挿入しており、当該領域に転写後調節機能が存在すればGFP mRNAの転写後調節に影響を与えGFP蛍光強度の変化として評価することができる。iPS細胞およびその分化誘導系において本システムの条件設定を完了し、また、RNA結合タンパクや同定された3’UTR領域の機能解析のためCRISPR/Casシステムを導入した。放射線照射においてiPS細胞は予想より感受性が高く1Gyの照射とし、HSCは2~5Gyとした。新規システムにより、iPS細胞およびHSCにおいてGFP発現に影響する一群の遺伝子断片を抽出することができ、順次クローニングを進めている。今後、同定された各遺伝子群を新たに〝被転写後調節遺伝子トランスクリプトーム(Transcriptome of post-transcriptionally regulated genes)″として捉え、放射線治療および防御における新たなターゲット遺伝子の機能解析を進める。
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