肉腫は癌腫と比べて発生頻度は低いものの、切除に伴うQOL低下が著しい症例や切除不能症例、および化学療法および通常の放射線療法が奏功しない症例が多い。臨床現場では肉腫の治療効果判定および早期発見に役立つバイオマーカーが求められており、その開発を期して本研究を実施した。当初は骨肉腫のみを対象疾患としたが、当院受診者すべてが化学療法実施済みで研究用血液の採取要件を満たさなかったため、機関内研究倫理委員会の承認を得て脊索腫を対象疾患に追加した。その結果、要件を満たす骨軟部腫瘍罹患者6名の協力を得て、目標症例数を確保した。最終年度、骨肉腫罹患者2名と脊索腫罹患者4名および健常者4名の白血球画分からRNAを調製し、cDNA-AFLP変法による高精度大規模遺伝子発現解析を実施した。計画の目標症例数は5名であるが、治療経過によっては解析対象外となる被験者が生じうるため上記症例数を解析した。8919種類のmRNA型転写産物の量測定(トランスクリプトーム解析)をおこない、各検体の転写産物発現パターンを距離法にて系統評価すると、健常者群は罹患者とは明確に異なる単一クラスタを形成した。罹患者群は、健常者群と大きく異なる亜群と相対的に健常者群に近い亜群の二つのクラスタに分離した。特に群間差の大きい100転写産物に着目することで、罹患者群と健常者群をより高精度に弁別可能と考えられた。本年度の結果は、前年度に実施した血漿由来miRNA解析による罹患者群検出能力よりも高感度であった。前年度解析はがん細胞そのものから放出される特異的miRNAの捕捉を期待したものであり、本年度解析は骨軟部腫瘍組織が血液細胞へ及ぼす遺伝子発現変化を捉えようとしたものである。両解析を通して得られた結果から、罹患者血液細胞を試料としてバイオマーカーの開発研究を進めることの重要性が判明した。
|