研究課題/領域番号 |
25670547
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武冨 紹信 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70363364)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 肝移植 / 臓器保存 |
研究概要 |
当研究は、冷温灌流状態の肝臓グラフトに対するsiRNA体外導入法の確立を目的としており、我々は、まず冷温条件下でのsiRNA導入の条件検討を行った。しかしながら、4℃でインキュベートされたマウス肝細胞株AML12に対しては、十分なsiRNA導入を行うことはできず、マウス肝移植モデルにおいて浸漬保存下および灌流保存下にある肝臓グラフトに対して保存液および灌流液を介した冷温下siRNA導入を行ったところ、レシピエントにおけるノックダウン効果は得られなかった。これらの結果から、我々は冷温条件下でのsiRNA導入は困難であり、十分な量のsiRNAの取り込みにはグラフトにおける十分な代謝レベルの維持が必須であると考えるに至り、灌流保存中に非冷温期を設け、その間にsiRNA導入を行う方針とした。我々は、この非冷温グラフト灌流保存法の開発のため、まず灌流装置に小型気液コンタクターを用いた灌流液の酸素化モジュールの組み込みを行った。また、保存液および灌流液をWilliam Medium EにL-グルタミン酸、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、インスリンおよび抗生剤を添加したsWMEに変更し、灌流液にはマウス血液より分離した赤血球を加えた。しかし、長時間の灌流保存ではマウス赤血球が溶血し、その毒性によりグラフト不全が誘発されるため、灌流液への赤血球の添加をやめ、sWMEのみを用いた灌流条件の検討を進めた。その結果、我々はマウス肝移植モデルにおいて20℃で2時間の非冷温酸素化機械灌流保存を導入し、レシピエントの長期生存を得ることに世界で初めて成功した。現在、この動物実験モデルにおける移植後生存率は約50%まで到達している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、当研究を冷温機械灌流下グラフトへのsiRNA体外導入の開発から、非冷温灌流化での導入へと拡張したため、研究計画に若干の遅延が生じたが、現在、当研究において最も困難な課題である非冷温酸素化灌流保存法の確立にはすでに成功しており、平成26年度中にこの遅延を解消し、当研究を完遂することは十分可能であると考えられる。また、当研究における計画変更および実験遅延の原因となった、冷温下における臓器へのsiRNA導入に関する検討およびマウス肝移植モデルへの非冷温酸素化機械灌流の導入はいずれも、当研究において非常に重要な位置を占める新規の知見と技術をもたらしたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、まず非冷温酸素化機械灌流下の肝臓グラフトにsiRNAの体外導入を試みる。この実験系の標的分子には、肝臓特異的に発現する凝固第7因子を用い、その評価は移植後のレシピエントにおける血清第7因子活性レベルにより行う。これらの評価系の有効性はすでに確認している。 続いて、当治療法を虚血再灌流傷害に適用する際の治療標的遺伝子の選定を行う。我々は非冷温灌流保存モデル構築の際に、この標的遺伝子の検討に適した重度のグラフト傷害モデルとして、20℃で2時間の浸漬保存後肝移植モデルを確立しており、これと冷温浸漬保存6時間モデルおよびコントロールとなるImmediateモデルの間で遺伝子解析を行い、標的遺伝子を検討する。 最後に選択した標的遺伝子に対するsiRNAを用いた動物実験において治療効果を確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当研究では、siRNA体外導入系として冷温機械灌流を用いることを計画していたが、冷温下のグラフトへのsiRNA導入効率は低いことが明らかとなったため、研究計画を変更し、マウス肝移植における非冷温機械灌流保存法を確立し、非冷温下でのsiRNA体外導入法の検討を行うこととした。そのため、動物実験に若干の遅延が生じたため、26,277円の次年度使用額が生じた。 前述のように、当初の計画に非冷温機械灌流法の確立という課題が追加されたが、現時点で律速段階となる問題点はほぼ解決されており、平成26年度には次年度使用額の26,277円を用いて遅れているsiRNA体外導入条件の検討に関するマウス動物実験を行い、続いて申請計画通りの研究を遂行する予定である。
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