現在のがん治療は,外科治療含めがんのみでなく正常組織にも傷害を及ぼす.また切除不能進行がんでは対症療法しか残されておらず,QOLを考慮した低侵襲治療が望まれる.これらを克服するため多くの低侵襲治療が考案・研究され,43℃近傍でアポト-シスが誘導され抗腫瘍効果を示す温熱治療もその一つである.我々は温熱で収縮し内部に封入された薬剤を放出する温度感受性高分子ポリマーを用い,かつ従来から継続研究している磁場印可によりキュリー点(43℃)で発熱が自動停止する感温性磁性体を組み合わせた機能性磁性体による温熱化学療法の開発を目的とし,当該研究期間で以下の成果を得た. 温度感受性高分子ポリマーにはpolymerised N-isopropylacrylamide (NIPAM) を用い,温度変化による粒径測定では,25℃で粒径1062.7nm,43℃で719.6nm,46℃で704.1nmと温度依存性に有意に収縮した.また抗がん剤であるメソトレキセート(methotrexate:MTX)含有薬剤放出性高分子ポリマーを加温することにより,有意なMTXの放出を確認した.さらに培養がん細胞実験において我々の開発した感温性磁性体による自動定温温熱療法と高分子ポリマー放出MTX同等量との併用でも,磁場印可に引き続く43℃自動定温加温により同様の熱感受性と抗腫瘍効果が確認できた.今後,温度感受性高分子ポリマーおよび感温性磁性体を用いた温熱化学療法の可能性追求には,動物実験含めさらなる検討が必要と考えられた.
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