本研究は胆道癌の予後を改善するため、微小転移の根絶を目指した多能性幹細胞(Multiliniage-differentiating stress enduring cells(Muse細胞))のターゲッティング性を活かした癌標的治療の開発を目指したものである。最終年度に当たる今年度は、ヒト間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)よりMuse細胞の分離抽出が可能であるかを検証した。Muse細胞はMSCの中のヒトES細胞のマーカーであるSSEA-3+で陽性を示す細胞であるが、SSEA-3+で標識された細胞をFACSで分離抽出したところ、総細胞数のごく数%のMuse細胞が獲得された。また、微小転移の制御のためには、抗癌剤を病巣に効果的に作用させる工夫が必要と考えられるが、MSCには血管新生誘導作用があるため、この移植で局所的に病巣の血流を向上させることにより、抗癌剤の病巣への効果的な流入が期待できる。その一つのモデルとして、マウスMSCとヒト臍帯静脈血管内皮細胞を温度感応性培養皿で共培養することで、培養皿上に血管の構築が可能であるか検証した。結果、MSCと血管内皮細胞はクラスター化し、その組織学的検討でヒトCD31陽性細胞による管腔形成像が認められた。そしてこれをマウスの腹腔内に移植したところ、移植後14において血流を伴う血管形成が認められた。Muse細胞は、MSCが持つ多分化能と血管新生作用を特に強く持つ分画であると考えられるため、この移植により胆管癌の血管新生が促進され、抗癌剤の感受性が向上するものと期待される。同時に、腫瘍の血流増加は易転移性にもつながる可能性があるので、Muse細胞による抗腫瘍治療法の確立にはさらなる検証が必要であるとも考えられた。 現在までの達成度は、MSCによる新たな知見が得られ、概ね順調に遂行できたと考えている。今後の検証として、胆管癌動物モデルの確立と、それに対するMuse細胞の移植法の確立、抗癌剤の治療効果の評価とその系の確立が求められる。
|