前年度で、GST融合p53野生型及びR175H変異型蛋白質を対象としたラマン分光構造解析、p53野生型またはR175H変異型遺伝子を導入したp53欠損細胞株H1299、p53野生型細胞株HCT116及びp53R175H変異型細胞株SK-BR-3を用いたp53蛋白質のin situラマン分光構造解析を行い、研究実施計画書通り顕微レーザーラマン分光によるp53野生型から変異型蛋白質への構造変化解析を可能にした。 この結果を元に、HCT116、SK-BR-3及び食道扁平上皮癌細胞株でp53野生型のKYSE150、p53H179R変異型のKYSE450に対して、p53活性回復効果があるとの報告があるPRIMA-1を論文記載のプロトコールに従い添加し、コンフォメーション特異的抗体およびin situ ラマン分光によるp53変異型蛋白質の野生型への構造回復、MTT法によるcell viability評価をおこなった。ところが、我々の実験では、PRIMA-1による有意な効果を確認できず、シスプラチンとの併用効果も認めることができなかった。そこで、食道扁平上皮癌細胞株を用い、抗がん剤に分類されていない種々の既存治療薬の中からcell viabilityに影響を与える化合物の探索を行うこととした。KYSE150 とKYSE450に対し増殖抑制効果に有意な違いを認めるものをいくつか見出し、現在、p53活性回復効果を含めた包括的な解析を行っている。 前年度に引き続き、p53蛋白質全長に対してAmber12により分子動力学シミュレーションを行った。セントラルDNA結合ドメインだけを対象としたシミュレーションに比べ、亜鉛イオンを失うことによるあきらかな高次構造変化を見出した。実際の変異型の構造まで変化するには蛋白質分子間相互作用の影響も大きいと考え、さらに多量体シミュレーションを行う予定にしている。
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