研究課題
一般に炎症に関連した発癌においては活性酸素(ROS)が大きく関与することが言われており、ROSに応答して細胞内のAktがリン酸化されることが示唆されている。従って、炎症性腸疾患(IBD)を母地とした発癌colitic cancerにおいてもAkt-mTORシグナル伝達経路が活性化している可能性が考えられる。さらにmTORは、タンパク合成の制御の他、オートファジーを負に制御することが知られている。ROSが引き起こしうるAkt-mTORシグナル伝達経路の活性化がcolitic cancer 発症に関与しているか、さらにmTORが制御するオートファジーの関与について解析することを目指して研究を遂行するものである。初年度は4-6週齢のBALB/cマウスにazoxymethan(AOM)を腹腔内投与し、その後dextran sodium sulfate(DSS)を投与しcolitic cancerモデルを作成した。上記薬剤投与で15週までに全マウスにおいて左側結腸優位に腫瘍の発生を認めた。Akt-mTORシグナル伝達経路の関与を免疫組織学的に解析したところ、mTORの染色は確認されなかったが、下流因子である4E-BP1の発現が正常粘膜に比べて腫瘍組織に高く認めた。Western blottingにおいては4EBP1で正常粘膜より腫瘍組織で発現が亢進している結果であった。さらに詳細を検討するためにreal time PCRでAkt-mTORシグナル伝達経路の関与と炎症、発癌組織の解析を行ったところ、正常粘膜、炎症組織、発がん組織とAkt-mTORシグナル伝達経路の相関は確認されなかった。原因としては、モデルマウス作成時にDSS濃度を変化(1%→3%)させたことで、外的因子に伴う活性酸素の影響と発癌に伴う活性酸素の影響の差が評価できなかったと判断した。本年度は前回のモデルマウスでの問題点を改善し、DSS濃度を2%に統一したモデルマウスの作成を行った。
3: やや遅れている
前年度のモデルマウス作成の際に経過中にDSSの濃度を増加させたことにより、高度の炎症が起こり、衰弱したマウスが認められた。高度の炎症を起こしたことで、活性酸素の関与を正確に評価することができなかった。前回の反省をいかし、AOM/DSSのプロトコールとして、DSS濃度を2%で固定したところ、現時点までに炎症に伴い衰弱したマウスは認めていない。DSSを2%にしたが、腸管の炎症の評価は肉眼的下血ではなく、2週間毎にsacrificeするマウスの腸管の長さを評価することで行った。その結果、DSS、AOM/DSSマウスにおいて、肉眼的下血を認めないものの、腸管が短縮している所見を認め、HE染色でも腸管に高度の炎症を確認することができた。また、day70の時点で初回のモデルマウスに比べると腫瘍の形成は緩徐ではあるが、癌組織が小さい段階で検体を採取、確認することが可能であった。個体から抽出されるタンパク量が少ないことが問題となるが、Akt-mTORシグナル伝達経路の評価を免疫染色とreal time PCRで行うことで、再現性をもった解析が可能であると考えた。また、モデルマウス作成にAOM/DSS群、control群の他にDSSのみ投与する群を追加し、より発癌とROSの関与を評価できるように工夫を加えた。前回のモデルマウスではreal time PCRでAkt-mTORシグナル伝達経路の関与が確認されなかったことから、新たに活性酸素の指標となる項目を追加することとした。
新たに作成したモデルマウスにおいて、腫瘍が左側優位にできることから、直腸をHE染色で評価することとした。AOM/DSS群、DSS群、control群の間にAkt-mTORシグナル伝達経路の関与に差があるかをreal time PCR、免疫染色を用いて検討する。また、同一個体内において腫瘍が左側結腸に優位にできることに着目し、虫垂、口側腸管、直腸の3部位にわけ、直腸で発癌が起こりやすいメカニズムとAkt-mTORシグナル伝達経路の関与と相関しているかを評価する。活性酸素の指標となる項目として8-OH-dGとcolitic cancerの関与を検討することとした。8-OH-dGは尿中で安定して測定することができる(空気酸化の影響を受けないため)ことから、AOM/DSS群、DSS群、control群のsacrifice前24hrにそれぞれのマウスを特殊なケージ(代謝ケージ)で飼育することで蓄尿し、検体を採取する。また、8-OH-dGを除去するhOGG1やMTH1による修復防御機構が知られており、それらの関与をreal time PCRを用いて検討する。Akt-mTORの関与が示唆された場合はmTOR上流下流因子の解析をさらに行うとともに、ヒトcolitic cancer 臨床検体におけるこれらの因子の発現についても解析を加えていく予定としている。
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