研究概要 |
本研究では,がん細胞の生存,増殖,浸潤やエネルギー代謝など根源的な生命現象とGSK3βの病的作用を関連させる可能性のある蛋白質リン酸化特性をプロテオミクスの理論と技法により解析する.そして,がん細胞の病理特性とGSK3βの「がん促進機能」の分子メカニズムをリン酸化プロテオームの視点から探究する.これにより,大腸がんの生物学的特性と関係する腫瘍蛋白質の性質や機能を規定するリン酸化特性と,GSK3βによるそれらの制御機構の手がかりとなる分子経路を探索し,GSK3β阻害による新しいがん治療法が“がん特異的リン酸化特性の修飾”に立脚するかを検討する. 本年度はまず,大腸がん細胞(SW480,HCT116)とヒト胎児腎由来の正常細胞(HEK293)の蛋白質リン酸化状態の基礎レベルを網羅的に半定量解析した.ついで,GSK3βの強制発現あるいはGSK3β阻害剤を処理した同一の大腸がん細胞のリン酸化プロテオームを測定した.得られたデータをバイオ統計学的に比較し,GSK3β特異的なリン酸化モチーフを検索することで, GSK3βによってリン酸化される候補ペプチド群を抽出した.その結果, GSK3βによってがん特異的にリン酸化状態が変化する21種類の蛋白質候補を見出した. 各々の候補蛋白質を強制発現させ, GSK3βで免疫沈降することで相互作用を確認したところ, 現在までに2種類の蛋白質で直接的な相互作用を確認できている. また, 次年度に予定していた生体腫瘍のリン酸化プロテオーム測定のための大腸がん細胞動物移植腫瘍も作成できている.当初予定していたヒト大腸がん組織と非がん部(正常)粘膜における蛋白質リン酸化状態の比較解析は,下記の理由により期間内に実施できなかった.
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