研究実績の概要 |
膵癌の発癌メカニズムとして、前癌病変であるPanINから浸潤癌に段階的に進展するadenoma-carcinoma sequenceが提唱されており、Kras, P53, p16, Smad4遺伝子の変異や欠失が発癌に関わっていることが明らかになっている。一方、周囲間質ニッチの活性型膵星細胞や細胞外基質が膵癌の浸潤・転移を促進することは広くしられているが、間質ニッチと発癌の関わりは明らかではない。 まず、ヒト膵癌切除組織の検討では、前癌病変であるPanINの段階から、異形細胞周囲には細胞外基質に富む間質増生を認めた。また、段階的な発癌過程を示す遺伝子改変膵癌モデルマウスの組織像の検討でも、初期のPanIN病変の周囲に間質増生を認め、前癌病変と間質ニッチ間の発癌過程における相互作用の存在が示唆された。我々は、接着分子として知られるCD146に着目して、間質ニッチについて検討した。CD146は、膵癌や膵癌前癌病変の間質で発現が高く、PanIN-1よりHigh grade PanIN(PanIN-2, PanIN-3)周囲間質で高発現であった。また、間質のCD146の発現は、癌の臨床病期や分化度と負の相関が認められた。膵癌切除組織より樹立した癌関連線維芽細胞のCD146発現を抑制すると、癌細胞との共培養系において優位に癌細胞の遊走・浸潤を抑えることが明らかとなった。このことは、癌関連線維芽細胞におけるCD146発現抑制によってNF-κB が誘導され、癌促進性の液性因子の発現が亢進することによるものだと明らかになった。今回の検討で、発癌段階では異形度が増すについて間質のCD146発現も増加するが、逆に浸潤癌の段階では、分化度が増すについて間質のCD146発現が減弱しており、発癌段階と浸潤癌の段階での間質のCD146の相反的な作用が示唆された。
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