研究課題
前年度までに我々は、ヒト膵癌組織と類似した病理組織像を呈する遺伝子改変膵癌モデルマウスであるKPCマウス(Pdx1-Cre; LSL-KrasG12D/+; LSL-Trp53R172H/+)を作成した。KPCマウスは、前癌病変である膵管上皮内腫瘍性病変から、肝転移と腹膜播腫を生じるようになった。また、ヒト膵癌切除組織と同様にマウス膵癌組織において間質の線維増生を確認した。本年度は、間質のリモデリングのキーファクターとして、CD51に着目し研究を進めた。CD51はインテグリンαVとしても知られ、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ビトロネクチン、ラミニンなど様々な細胞外マトリックスの受容体として働き、細胞接着や細胞遊走などに関与している。最近、マウスの肝線維化モデルにおいて、肝星細胞におけるCD51発現が肝線維化において重要な役割を果たしていることが報告された。我々は、膵癌の豊富な間質増生における主体としての膵星細胞において、CD51分子が間質リモデリング制御の標的となりうるかについて検討した。ヒト膵癌組織における免疫化学染色では、CD51は膵癌間質に高発現していた。また、樹立した膵星細胞におけるCD51mRNA発現とタンパク発現を確認した。膵星細胞におけるCD51の発現をRNA干渉の手法で抑制したところ、コラーゲンⅠやフィブロネクチンの産生が低下し、さらにPDGF-AやSDF-1などといった癌間質相互作用に関係する因子の発現が低下することを明らかにした。皮下移植マウスモデルでは、膵癌細胞株と膵星細胞との共移植において、対照群に比べて膵星細胞のCD51ノックダウン群で腫瘍径が減少する傾向にあった。これらの結果は、膵星細胞におけるCD51が間質増生と膵癌の悪性度増強という2つの事象に関与していることを示すものであり、CD51が膵癌治療の標的とりうることを解明した。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件)
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