昨年度はヒトiPS細胞株201B7からの骨格筋前駆細胞誘導に取り組み、申請者が開発した高効率骨格筋前駆細胞誘導法(EZスフィア法)を用いて201B7株からの骨格筋前駆細胞の誘導に成功している。本年度は、ヒトiPS細胞由来心筋前駆細胞と骨格筋前駆細胞との間でマイクロRNA発現プロファイルを比較し、心筋前駆細胞特異的なマイクロRNAを同定することを第一の目的とした。骨格筋前駆細胞と同様に201B7をヒトiPS細胞株として用い、現状最も誘導効率の高い方法の一つであるGiWi法を採用した。本法は、低分子化合物を用いてGSK3bおよびWntシグナルを時期特異的にON/OFFする方法であり、実際に本研究においてもGiWi法により201B7株から高効率にNkx2.5陽性の心筋前駆細胞を誘導することに成功した。一方で、EZスフィア法によって誘導したヒトiPS細胞由来骨格筋前駆細胞そのものの心筋前駆細胞への分化能を検証するために、DMSO含有培地で誘導する方法と、Neuregulin-1添加により誘導する方法の二つの方法で誘導を試みた。驚くべきことに、マウスを用いたこれまでの報告では起こりえないとされてきた骨格筋前駆細胞からの心筋前駆細胞への分化転換がNeuregulin-1存在下で誘導可能であることが明らかになった。ヒト骨格筋前駆細胞から分化転換した心筋前駆細胞はin vitroにおいて心筋細胞へも最終分化した。そこで、骨格筋前駆細胞から分化転換した心筋前駆細胞をマウス心筋梗塞モデルの梗塞心へ移植し、その生着性および心筋細胞分化能を評価した。その結果、マウス心筋梗塞モデルの不全心にヒト核を有するヒト細胞由来の心筋細胞が存在することを認めた。すなわち、ヒトiPS細胞から誘導したEZスフィア自身が骨格筋へも心筋へも分化し得る多能性細胞であることを示唆している。
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