肺移植は末期肺疾患を救う治療法として増加する一方,移植後の予後は非常に悪く,その原因の大半が閉塞性細気管支炎の発症によるものである.しかしながら,その発生期所には不明な点が多く,効果的な予防・治療法が存在しない.本研究では,閉塞性細気管支炎に対するリゾリン脂質(LPA)の合成酵素オートタキシン(ATX)の創薬ターゲットとしての有用性を明らかにすることを目的とした.平成25年度のheterotopic tracheal transplantationマウスの研究によって,ATX阻害抗体で移植片の閉塞の改善は見られなかったが,1型および3型LPA受容体のアンタゴニストの投与では移植片の上皮の脱落が抑制された.よって,平成26年度は当初の計画を修正し,(1)気道上皮に与えるLPAシグナル系の解明,(2)臨床データを用いた肺移植後の閉塞性細気管支炎とLPAの関連性の検討を実施項目とした. (1)については,ヒト気道上皮細胞株BEAS-2Bを用いてLPAの影響を検討した.BEAS-2B細胞懸濁液にLPAを加えて培養プレートに播種したところ,プレートの底面での細胞の伸展が抑制された.また,BEAS-2Bの培養液中にLPAを加えると,細胞の底面からの剥離が誘導された.これらの現象は1型および3型LPA受容体(LPA1およびLPA3)のアンタゴニストを加えることによって抑えられた.次に,LPA1およびLPA3それぞれの発現をsiRNAでノックダウンしたところ,LPA1のノックダウンではLPAによる細胞接着の減弱が抑えられたのに対し,LPA3のノックダウンではLPAに対する変化が見られなかった.よって,BEAS-2BにおいてLPAはLPA1を介して細胞の培養プレートへの接着を減弱させていることが分かった. (2)については,肺移植患者の検体を入手することができなかった.
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