我々はiPS細胞から肺幹細胞とされるⅡ型肺胞上皮細胞を効率的に分化・誘導し、疾患モデルマウスへ経気道的に移植、その治療効果を検討することを目標としている。 平成25年度はマウスiPS細胞、ヒトiPS細胞の安定的な培養方法の確立、Ⅱ型肺胞上皮細胞への分化誘導を促進するとされるSAGM(small airway growth medium)の調整と片肺全摘モデルマウスの作成を行うことができた。 平成26年度は分化・誘導実験を継続しながら、Ⅱ型肺胞上皮細胞に特異的とされるSP-Cを標識できる遺伝子を作成することで、リアルタイムに細胞の選別をはかれることを想定し、目的遺伝子の作成に着手した。 平成27年度には、この目的遺伝子の作成に成功した。作成したSP-C-Pac-EGFP遺伝子は、puromycinで選別することも可能とし、最終的なⅡ型肺胞上皮細胞が得られた際の回収率の向上が望めると考えられた。実際に、ヒトiPS細胞に遺伝子導入後、SAGMで分化誘導を行い、day8の段階で蛍光顕微鏡において発色することを確認した。SAGM分化誘導前、分化誘導後の複数のタイミングで採取した細胞を、SP-Cでウエスタンブロットを行い、培養10日目、14日目のタイミングでSP-Cの発現を確認した。 平成28年度には、マウスiPS細胞を、2種類の培養液を用いて胚性内胚葉を経てⅡ型肺胞上皮細胞へと分化誘導し、SP-Cの発現を蛍光免疫染色で確認した。また、我々がこれまでに報告したカフテクニックを用いたラット肺移植の手技を応用し、マウスにおける同所性肺移植の手技を確立した。Cold ischemic timeを管理することで、虚血再灌流障害マウスモデルの作成を行い、現在はAllograftでの同所性肺移植による慢性拒絶モデルマウスの作成実験を継続中である。
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