研究課題
挑戦的萌芽研究
虚血時には低酸素と酸性化(低pH)が伴う。これは酸素供給の低下とそれを反映した解糖系の亢進による乳酸産生の増加に基づく。最近、我々を含む国内外のグループによって、従来リゾ脂質性のG蛋白質共役受容体(GPCR)と報告されていたOGR1ファミリー(OGR1,GPR4,TDAG8)が細胞外のpH(プロトン)を感知して細胞内にシグナルを伝達するGPCRであることが判明した。私達はこのユニークなGPCRの生体での機能を知る目的で受容体欠損マウスを作成した。本研究では、脳虚血に曝された細胞が再灌流時のダメージとそれからの回復に対して、pH感知性受容体がどのように関わっているかについて、脳梗塞モデル実験、ミクログリア、神経細胞を用いた作用機構解析によって明らかにする。その結果、(1)中大脳動脈閉塞(約30分)再灌流後、5日後の線条体の梗塞部位と反対側線条体のTTC染色をおこない、神経細胞などのアポト-シスの状況を調べたところ、梗塞部位で明らかな神経細胞の細胞死を観察した。また、運動機能の測定でも、対象マウスと梗塞を行ったマウスであきらかな運動機能の違いが観察された。それをスコア化することで、運動機能の測定が可能であった。現在、これらの方法を用いて、野生型マウスとプロトン感知性受容体の一つであるTDAG8欠損マウスとの比較実験をおこなっている。(2)マウス胎児から採取したミクログリアではTDAG8が主要なプロトン感知性受容体である。酸性pHはLPSによる炎症性サイトカイン(IL-1b)産生を抑制する。この応答はTDAG8欠損マウス由来のマイクログリアでは有意に抑制された。cAMP誘導体(PKA特異的誘導体、Epac特異的誘導体)、PKA阻害薬の効果などを調べた実験から、pH低下がTDAG8/cAMP/PKAを介してLPS応答を抑制していることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
当初は実験が比較的容易な総頸動脈閉塞モデルマウスで実験を行っていた。しかし、梗塞部位と非梗塞部位との比較のためには中大脳動脈閉塞のほうがベターであるとの判断から、方法を変えてみた。実験手技の取得にやや時間がかかり、やっと、プロトン感知性受容体欠損マウスの実験データが得られ始めた段階である。梗塞実験のデータは再現性よく得られているので、今後、多いに期待できる。ミクログリアの実験は当初の予定どおり、TDAG8のサイトカイン産生抑制機構に関してcAMP/PKAの関与を証明できた。
このように、個体レベルの中大脳動脈閉塞実験では再現性よくTTC染色によるアポトーシスの比較、運動機能の測定ができるようになったので、これを継続して、プロトン感知性受容体の中でもTDAG8の関与を明らかにしたい。また、虚血再還流後の組織を採取して炎症性サイトカイン(TNF-a, IL-1b, IL-6, iNOS, COX-2など)のmRNAの測定などを行い、炎症反応の程度の違いを明らかにする。ミクログリアの実験ではcAMP/PKAがLPSのどのシグナル系を抑制しているかに関して、MAPKを指標にして解析する。さらに、神経細胞におけるプロトン感知性受容体の役割りに関しても、神経細胞のモデルとしてN1E115細胞のシグナル系と受容体の関係を明らかにする。
計画はほぼ順調に遂行した。予定していた試薬の入手が年度をまたぐ危惧があったために若干の経費の繰り越しになった。この持ち越し経費は当初予定の経費と合わせ、ミクログリアにおけるcAMP/PKAのMAPK活性に対する影響の解析や神経細胞のモデルとしてのN1E115細胞のシグナル伝達系の解析に用いる。
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