ヒト軟骨細胞におけるオートファジーの重要性は近年注目されている通りである。前年度の基礎検討にて、培養軟骨細胞に低酸素ストレス、飢餓ストレスを与えたときにオートファジー関連因子の発現・活性上昇が観察された。特にオートファジーの一連のシグナルの開始点として知られるULK1・BECLIN1を中心として、ストレス下においてオートファジーに影響を与える上流因子を検索した。そしてトリガーの一つとして、転写因子HIF1Aの安定化が関与することが判明した。低酸素ストレス下ではHIF1Aのユビキチン化が阻害され安定化することによって様々な機能を発揮することは周知であるが、その一つとしてAktもしくはErkシグナルパスウェイを介してmTORを抑制、その下流の抑制標的であるUlk1を亢進させていることがin vitroで分かった。そこでHif1a-floxマウスから関節軟骨細胞を単離して、アデノウイルスを用いてCreリコンビナーゼを導入してHif1aをノックアウトしたところ、mTOR上昇からのUlk1低下を介してオートファジーの誘導は部分的にキャンセルされた。しかしHif1aのノックアウトは同時に細胞死を亢進する結果となり、Mmp13などの軟骨基質分解酵素の発現も誘導され、軟骨基質の分解が大きく進む結果となった。低酸素下においてHIF1Aはオートファジーを含めた恒常性の維持に重大な役割を果たしていると考えられ、このメカニズムは変形性関節症の病態の一端を担う可能性が考えられる。
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