研究課題/領域番号 |
25670642
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡本 健 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30414113)
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研究分担者 |
金 永輝 京都大学, iPS細胞研究所, 研究員 (90620344)
戸口田 淳也 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (40273502)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 軟骨形成腫瘍 / イソクエン酸デヒドロゲナーゼ / 遺伝子変異 / 人工多能性幹細胞 / エピゲノム解析 / トランスクリプトーム解析 |
研究概要 |
軟骨形成腫瘍に特異的に存在しているIDH遺伝子の変異の生物学的意義を、iPS細胞を始めとする幹細胞生物学の技術を駆使して、分化段階特異的に解析することで、腫瘍発生における役割を明らかににすることを目的とする。平成25年度はまず予備実験として、骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)に軟骨形成腫瘍において高頻度に変異が認められる変異IDH1(R132C)遺伝子を発現ベクターを用いて導入した。変異IDH1発現MSCにおいては、変異IDH1によって産生される2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)の産生、軟骨への分化マーカーであるSOX9, COL2A1の発現上昇、骨への分化マーカーであるALP発現の低下が認められた。これは変異IDH1遺伝子がMSCの軟骨への分化誘導能を持つことを示唆した。またIDH1の変異によってアルファケトグルタル酸(αKG)の産生が低下し、これによってヒストン脱メチル化酵素の機能が阻害され、ヒストン全体のメチル化が亢進することが予想される。実際変異IDH1発現MSCにおいてはリシン4メチル化ヒストンH3(H3K4me3)、リシン9メチル化ヒストンH3(H3K9me3)の発現が上昇しておりヒストンのmodificationがおこなっていることが示された。続いてiPS細胞を用いた実験系確立に向けて、変異IDH遺伝子を薬剤(doxycyvline)誘導型発現ベクターに組み込んだ。このベクターをiPS細胞に導入し、doxycyclineにより任意の分化段階で変異IDHD1を誘導できる、doxcycline-inducible iPSを作成することに成功した。このiPS細胞をMesoderm由来のMSCに分化させた後にdoxcyclineを添加し、変異IDH1の発現が誘導されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験として行った、骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)に軟骨形成腫瘍において高頻度に変異が認められる変異IDH1(R132C)遺伝子を強制発現される実験によって、変異IDH1遺伝子が多分可能をもつMSCを軟骨へ分化誘導する機能を持つことが判明した。これは変異IDH1が軟骨形成腫瘍発生に重要な役割を果たすという我々の仮説を支持する。また平成25年度の当初の目標であった、変異IDH1遺伝子が組み込まれた薬剤誘導型発現ベクターを標準的iPS細胞に導入し、doxycyclineによって変異IDH遺伝子発現が誘導できるiPS細胞を樹立することに成功した。これはiPS細胞において、未分化細胞から最終(軟骨)分化細胞までの任意の分化段階において変異IDH1遺伝子を発現させて、その作用を解析することが可能となることを意味し、大きな進歩である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は以下の予定で行う。1) 樹立した変異IDH1発現iPS細胞を用いて、既に確立している胚様体形成を介さない分化誘導系を用いて軟骨分化能力を確認する。同時に標準的iPS細胞を用いて、選択した濃度のDoxycyclinが軟骨分化に影響を及ぼさないことを確認する。2) 分化誘導の異なる段階において、変異IDH遺伝子の発現を誘導する。次に変異IDH遺伝子の発現を誘導したiPS細胞由来の各分化段階の軟骨系細胞を免疫不全マウスの皮下及び骨髄内に移植し、造腫瘍性を評価する。3) 軟骨分化誘導の各段階においてトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム解析を行う。プロテオーム及びメタボローム解析は島津製作所との共同研究として行う。4) IDH遺伝子に変異を有する軟骨形成腫瘍のヒストンメチル化の状態とiPS細胞由来軟骨細胞で変異IDH遺伝子を発現させた際のヒストンメチル化の状態を比較し、軟骨形成腫瘍における2HGのヒストンメチル化に対する作用を解析する。
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