研究課題
過去の椎間板変性の多くの基礎的知見は、齧歯類を中心とした実験動物モデルの研究より得られているが、霊長類と齧歯類の椎間板髄核の性状に大きな相違が存在する問題がある。この問題の究極の解決策は、霊長類化椎間板を持つ実験動物の樹立である。本研究は、「チンパンジー人工多能性幹細胞(iPS細胞)」と「全脊椎で椎間板髄核を完全に欠損するマウスより樹立した変異ES細胞」を使用することで、霊長類化椎間板髄核組織を保有するキメラマウスを樹立し、加齢・荷重負荷・薬剤による椎間板変性モデル作出に供し、変性で発生するイベントを検証し、霊長類化椎間板の有用性を検討する計画を立てた。そのため、既に樹立された霊長類iPS細胞がマウス生体に生着するかどうかの検討を行った。まず、1細胞レベルに単離した霊長類細胞をマウス胚盤胞へ移植を試みた。その後、成長させたマウス後期胚に対して単離して移植したドナー細胞の生着の有無の解析を行った。その結果、細胞レベルに分離した霊長類細胞を移植したマウス胚組織内において齧歯類ホストへ霊長類ドナー細胞は全く生着しないことが判った。この現象の理由は、細胞間ネットワークの消失・構築不全だけでなく異種細胞間のクロストーク障害によるものと推測される。つまり、同種細胞間ネットワークが保たれたままでの多細胞集団レベルでの移植の場合、栄養供給に障害さえなければ、組織移植というストレス環境でも隣接細胞とのクロストーク等の情報伝達によって生存率の向上に寄与すると考えられるが、異種細胞集団組織への単離された1細胞レベルでの移植になると、異種細胞間のミスマッチ条件下において、周囲の環境に適応するための内分泌型、傍分泌型、自己分泌型、接触型といった情報伝達機構のなかでも細胞の運命や行動が決定される隣接細胞からのシグナル伝達機構の消失が決定的バイアスとなったことが推測された。
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Oncogene
巻: 35 ページ: 2407-2412
10.1038/onc.2015.294.
http://irda-genetics.kuma-u.jp/publication/p02.html