申請者らのグループは亜酸化窒素の鎮痛作用におけるオピオイド受容体ファミリーの関与について研究してきた。ノシセプチン受容体欠損マウスおよびノシセプチン受容体拮抗薬投与マウスでは、亜酸化窒素の鎮痛作用が有意に減弱した。また、モルヒネ等の鎮痛作用に関与するμオピオイド受容体を欠損するマウスでは、亜酸化窒素の鎮痛作用は野生型マウスと有意の差は認められなかった。さらに、オピオイド受容体拮抗薬を用いた実験では、亜酸化窒素の鎮痛作用は、δオピオイド受容体拮抗薬投与では影響されないが、κオピオイド受容体拮抗薬では有意に抑制された。 本研究では、κオピオイド受容体欠損マウスにおける亜酸化窒素の作用を検討した。亜酸化窒素の鎮痛作用を酢酸ライジング試験とホットプレート試験で検討したところ、κオピオイド受容体欠損マウスにおける亜酸化窒素の鎮痛作用は著明に減弱していることが明らかになった。また、亜酸化窒素存在下では揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度が低下することが知られているが、κオピオイド受容体欠損マウスでは揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度は亜酸化窒素の影響を受けなかった。さらに、亜酸化窒素の鎮痛作用は下行抑制系の活性化を介することが報告されているが、κオピオイド受容体欠損マウスでは下行抑制系の指標である腰髄後角のc-Fos発現は野生型マウスに比べて有意に少なかった。一方、亜酸化窒素の鎮静作用を立ち直り反射消失効果により評価したところ、κオピオイド受容体欠損マウスと野生型マウスで有意差は認められなかった。以上の結果は、亜酸化窒素の鎮痛作用はκオピオイド受容体およびノシセプチン受容体を介すること、亜酸化窒素の鎮静作用はκオピオイド受容体以外の機序を介することを示している。
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