研究課題
申請者らは本研究を通じて、臨床課題として術前認知機能障害のない65歳以上の患者を対象とし、比較的長時間手術におけるセボフルランおよびデスフルランの術後認知機能障害の発症についての検討を高次脳機能テスト(MMSE)を行うことで実施した。デスフルランで麻酔を受けた群ではセボフルランで麻酔を受けた群と比較してMMSEスコアが良好である傾向が示された。その分子生物学的な機序を探索するため、マウス海馬ニューロンにおける全mRNAの発現変化を一元的に解析した(トランスクリプトーム解析)。その結果、8週齢のマウスでは吸入麻酔薬曝露はRtn4rl2遺伝子が最も発現が増大しLIM-homeodomain family遺伝子群が最も抑制されることが示された。吸入麻酔薬曝露は神経幹細胞の誘導に影響を与える可能性が示唆された。さらに35週齢以降のマウスについての海馬ニューロンにおける全mRNA解析を追加し、週齢による遺伝子発現の変化を検討した。その結果、35週齢のマウスにおいてLIM-homeodomain familyの一つであるLhx9遺伝子が最も発現が増大傾向を示し、Epyc遺伝子が最も抑制された。週齢の差によってLIM-homeodomain familyの発現が大きく異なることは、これまで基礎的に幼若期の吸入麻酔薬曝露による神経炎症だけが良く研究されていた分野であったことに対し、成熟した脳においても別の機序で術後認知機能障害を引き起こしているのではないかと示唆するものである。
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