研究課題
前立腺癌において、PSAを補完しうるマーカーが求められているものの、真に有用な新規マーカーの開発には至っていない。また、MRIは前立腺癌の局在診断に有用な検査であるが、その感度に限界がある。一方、癌組織におけるリン脂質などの小分子物質の重要性は、近年しばしば報告されているが、その詳細については明らかにされていない。本研究において我々は、高解像度の質量顕微鏡(Imaging Mass Spectrometry 以下IMS)を用いて、前立腺癌細胞において特異的に発現しているリン脂質を同定し、その代謝をMagnetic Resonance Spectroscopy(以下MRS)の技術で画像化することにより、前立腺癌の新たな診断方法の開発を目指している。平成25年度研究において我々は、前立腺全摘を施行した前立腺癌患者の前立腺組織に対して、高解像度IMSによる解析を行った。 Discovery set(14例)の解析により、前立腺によく発現する26分子を同定し、MS/MS解析により、それらのうち14分子はホスファチジルイノシトール(PI)と同定された。また、PI(18:0/18:1)とPI(18:0/20:3)、PI(18:0/20:2)は正常腺管と比べて癌部で有意に発現が亢進していた。さらに、Discovery setを用いた多変量解析により組織上でのPIの発現プロファイルによる癌部の診断アルゴリズムを作成し、Validation set(24例)において、このアルゴリズムは感度87.5%、特異度91.7%の診断率であった。以上より、高解像度IMSにより、正常腺管よりも前立腺癌部で高発現するPIを数種類同定したこと及び、これらのPIの発現プロファイルの差異は、前立腺癌の新たな診断マーカーとなり得ることを論文発表した。また、発現している脂質と予後の関係を解析することで、リゾフォスファチジルコリン(LPC)の発現が正常前立腺上皮に対し前立腺癌部で有意に低下していた。この知見に関し現在論文投稿中である。
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