研究実績の概要 |
本研究では前立腺癌の転移・浸潤を制御する新規遺伝子の探索を目的とし、ショウジョウバエを用いた個体レベルでのスクリーニングを試みてきた。平成25年度は、ショウジョウバエ雄の前立腺様組織accessory glandを用いたスクリーニング系を構築し、ヒト前立腺癌の転移・浸潤制御機構を評価することが可能であることを示した。 平成26年度は、構築したスクリーニング系を用いてaccessory glandで特異的に高発現する25遺伝子に関し、細胞の浸潤・転移制御能を評価した。その結果、雌との交配依存的に遊走する性質を有するsecondary cellsの増殖及び遊走に影響を及ぼす数種の遺伝子を同定することに成功した。遺伝子変異により増殖及び遊走する細胞の数が顕著に変動した3遺伝子に関し、そのヒトホモログの機能をヒト前立腺癌細胞で解析した。3つの遺伝子(CNPY2, MRGBP, MEP1A)のmRNA発現は、いずれも前立腺組織由来の正常細胞に比較し癌細胞で優位に高かった。さらに、これら遺伝子は前立腺癌細胞の増殖あるいは浸潤を促進することが示唆された (Ito et al., BBRC, 2014)。 さらに、同定した遺伝子の一つCNPY2に着目し、機能解析を行いアンドロゲンレセプター(AR)のタンパク分解を阻害することを見出した。従って、CNPY2は前立腺癌の増悪を促進する主要な因子であるARのタンパクレベルを増加させることで、癌細胞の増殖・浸潤を促進する可能性が推測された。 今後、CNPY2やスクリーニングで同定した他の遺伝子に関して、in vitro系及びマウス癌モデル用いた個体レベルでの解析を展開することで前立腺癌の増悪制御メカニズムにおける新たな知見を得られると考えられる。
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