不妊症の原因の約半数は、精子数の減少あるいは精子の受精能の低下など男性不妊症である。男性不妊症の罹患者は、糖尿病・肥満症などメタボリックな病態によって増加している。男性不妊症の治療として体外受精や顕微授精などの生殖補助技術が施行されているが、身体的・経済的な負担は大きく、かつ、それぞれの治療周期に期待できる挙児の確率は約20%と必ずしも高くない。したがって、男性不妊症の詳細な分子機構と新たな治療法の確立が求められている。 十二指腸など上部消化管に発現するK細胞から分泌される消化管ホルモンGIP (gastric inhibitory polypeptide)は、膵β細胞からのインスリン分泌を促進するのみならず、脂肪細胞や骨芽細胞において栄養素の蓄積に作用する。本研究は、GIP受容体が精巣に強く発現していることから着想したGIPによる精子機能の調節に関する挑戦的萌芽研究である。GIP受容体欠損マウス精巣で特異的に発現が低下している因子Xについて、免疫染色法で精子における発現を確認するとともに、cAMPシグナルが因子Xの遺伝子発現を促進する経路に転写因子CREMτの関与することを明らかにした。さらに、高脂肪食モデル動物では精巣においてGIP受容体遺伝子発現のみならず、因子Xの発現も低下するが、インスリン分泌障害モデルマウスではこのようなことがないことも明らかにした。 精子に発現する因子Xが卵子と結合する重要な因子であることを示し、過栄養がGIPシグナルや因子Xのダウンレギュレーションによって生殖率の低下に繋がることを示す結果を得て、男性不妊症の治療に新たな方策を示すことができた。
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