ヒト正常内膜細胞モデルとして新たに樹立されたEM-E6E7TERT+Eralpha細胞を用いてメトホルミンの作用を解析した。メトホルミン0.01-1mMの添加では細胞数には変化がみられなかったが、10mM添加では細胞数の抑制が観察された。これまでに同定したメトホルミンの増殖シグナルの変化(MAPK、mTOR-S6K)についても同様であった。一方、ヒト子宮内膜癌細胞由来のIshikawa細胞では、0.1-10mM濃度のメトホルミンで容量依存性に細胞増殖の低下とシグナル強度の変化が観察された。したがって、正常内膜細胞は内膜癌細胞に比し、メトホルミンによる影響は受けにくい可能性が示された。メトホルミンの細胞接着に及ぼす影響をトリプシン消化抵抗性とe-cadherin発現により検討したところ、メトホルミンがカドヘリン発現を増加させ、トリプシン消化抵抗性をもたらすことが示された。若年のPCOS合併子宮体癌症例で、術前にメトホルミン投与を行った患者の摘出子宮内膜を用いて、メトホルミンのin vivoでの影響を検討した。内膜癌部分とは別に存在した正常内膜組織では、メトホルミン投与後にERK1/2とmTOR-S6K系の低下が認められ、カドヘリンの亢進が観察された。この結果、メトホルミンの投与が、正常内膜に対して増殖を抑制する、細胞接着能は亢進させるなどの作用を持つことから妊孕性に影響を与えている可能性が示された。
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