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2013 年度 実施状況報告書

難治性卵巣明細胞腺がんに対するDNA修復異常に着目した薬剤耐性の克服

研究課題

研究課題/領域番号 25670705
研究種目

挑戦的萌芽研究

研究機関奈良県立医科大学

研究代表者

赤坂 珠理晃  奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 助教 (90526724)

研究分担者 植栗 千陽  奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (00526725)
大井 豪一  奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (10283368)
吉田 昭三  奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (40347555)
古川 直人  奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (50347556)
研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2015-03-31
キーワード上皮性卵巣癌 / 明細胞腺癌 / HNF-1beta / ATR / Claspin / Chk1 / 細胞周期調節
研究概要

上皮性卵巣癌のうち明細胞腺癌は、早期癌であってもシスプラチンなどの白金製剤を中心とした化学療法に低感受性で、残存・再発病変のコントロールは極めて難しく、予後が不良である。このため明細胞腺癌の薬剤耐性機構を解明して新たな治療戦略を構築することは、今後の治療成績を向上させるために喫緊の課題である。我々は明細胞腺癌に特異的に過剰発現している転写因子HNF-1betaに注目している。この転写因子は、その発現により卵巣癌の予後の差が明確に証明されていること、この物質の発現により抗がん剤抵抗性かどうかがわかること、すでに遺伝子発現・免疫組織染色法によって測定可能な物質であること、が臨床応用するうえで有望な標的遺伝子産物である。しかし、転写因子HNF-1betaの発現自体を操作する遺伝子治療の開発は困難を伴う。そこで、HNF-1betaの下流遺伝子を探索した結果、DNA修復遺伝子の制御ならびに細胞周期調節に関与していることが判明し、その実行タンパクとしてATR, Claspin, Chk1に絞り込むことができた。Claspinは複合体形成後Chk1を活性化し細胞周期を停止させるタンパクとして最近同定されたばかりである。生体内に存在する分解除去酵素(プロテアソーム;26Sと考えられている)によって分解されることで、チェックポイント抑制が解除され、細胞周期は正常に復する。他方、悪性腫瘍ではChk1やATR遺伝子により安定化され、長くチェックポイントを停止させることでがん細胞の増殖を助けるとされる。これまでの研究で卵巣明細胞腺癌では、HNF-1betaがChk1の持続的なリン酸化をもたらしチェックポイント解除を抑制し抗癌剤耐性・発癌に関与している可能性を明らかにしてきた。本研究ではclaspinの作用機序を明らかにして明細胞腺癌の新たな治療戦略につなげることを目的としている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

HNF-1betaのノックイン・ノックダウン実験の結果、この遺伝子はDNA損傷に対し、センサー・エフェクターとして作用するタンパクのリン酸化・活性化を誘発し、細胞周期停止を持続させ、抗がん剤耐性を獲得することを発見した。すなわち、DNA損傷を修復するためには、修復部位を認識するため、ATR-ATRIP-Claspin-Chk1複合体が形成されセンサーとして作用し、最終的にChk1のリン酸化を起こすことにより細胞周期を停止させ、その間にDNA修復を行う。その後Chk1のリン酸化が解除されるため、修復困難と判断され細胞死に至る。しかし、明細胞腺癌ではHNF-1betaの過剰発現のため、Chk1タンパクのリン酸化が起こったままとなり、細胞周期停止が持続するため、抗がん剤に耐性を示すことを確認した。これまで転写因子がタンパク質のリン酸化を直接制御するという報告はないためHNF-1betaとchk1リン酸化の間に介在するタンパクの存在が示唆された。我々はその因子がclaspinであることを明らかにした。現在、HNF-1betaがclaspinそのものの発現を制御しているのか、もしくはユビキチン化を介したタンパク分解を制御しているのかを明らかにすべく研究を進めている。

今後の研究の推進方策

HNF-1betaがclaspinそのものの発現を制御しているのかを確認するためにRT-PCRにてRNAの発現調べる。予備実験では、HNF-1betaの有無により明らかな発現の差は認めなかった。抗癌剤添加後の発現に変化がある可能性を確認するために0から24時間の間でRNAを抽出する実験を計画している。またHNF-1betaを一過性にノックダウンすることによるclapin発現、抗癌剤添加後の反応の変化も確認する。HNF-1betaがタンパク分解に対するユビキチン化に作用している可能性についても検討する。ユビキチンにより標識されたタンパク質をプロテアソームで分解する系はユビキチン-プロテアソームシステムと呼ばれ、細胞周期制御、免疫応答、シグナル伝達といった細胞中の様々な働きに関わる機構である。HNF-1beta陽性細胞にプロテアソーム阻害剤を添加し、チェックポイントタンパクの発現に変化がないか検討する。近年、26Sプロテアソームを阻害するボルテゾミブ(ベルケード:VELCADE)が、血液癌の一種である多発性骨髄腫に有効であることが報告され、抗癌剤として臨床応用されている。HNF-1betaがプロテアソーム系に作用していることが明らかとなれば、明細胞腺癌の新たな治療戦略につながる可能性がある。

次年度の研究費の使用計画

研究計画はおおむね順調に進んでいるが、計画に必要な試薬等を平成26年度に購入することとなったために、次年度使用額が生じた。
claspinの発現を確認するRT-PCR実験のための試薬が必要である。また、ブレオマイシンだけでなくトポテシン、白金剤などの抗癌剤添加による細胞の生存状況につきMTTアッセイを中心に定量的に確認するために、それらの試薬を購入する。プロテアソーム阻害薬の実験については数種類の阻害剤の購入を検討している。プロテアソーム阻害薬は細胞毒性が強いものもあり、抗癌剤の抗腫瘍効果を確認するためには明細胞腺癌細胞株に対して比較的毒性が低いもの を選択する必要がある。予備実験のMG132は毒性が強く、プロテアソームを阻害できる至適濃度を添加することができなかった。この点について他の試薬で慎重に実験を進める。これらの試薬の購入費用が必要である。

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公開日: 2015-05-28  

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