オートファジーは細胞内蛋白分解系の重要な機構で、恒常性維持のために不要な蛋白等を順次分解し、再利用する役割をしていると考えられている。またオートファジーが発癌、神経変性疾患、2型糖尿病等の生活習慣病、心不全、腎症、感染症、各種の炎症など、さまざまな重要疾患の発症を抑止していること、また発生・分化、老化、免疫などにおいて重要な生理機能を持つことが明らかになり、オートファジー研究は現在大きな注目を集めている。オートファジーは細胞死に関連した細胞応答であることがわかってきて、癌細胞死に抑制的に働く場合と促進的に働く場合が確認されている。癌細胞は代謝要求性が高く、オートファジーによる自己分解を介したアミノ酸や脂肪酸、糖質の供給は、その生存、増殖に寄与する。一方、正常細胞では恒常的に起こっているオートファジーにより、オルガネラーホメオスタシスやシグナル伝達を担う分子の量的調整が行われ、腫瘍化が抑制される。つまり、オートファジーは腫瘍抑制効果があると同時に、腫瘍が一旦確立されるとその代謝要求性を満たす一面もある。 われわれのこれまでに、上咽頭癌組織を用いた実験で化学療法前後におけるオートファジー関連タンパクのBeclin1の発現を免疫組織学的に検討したところ、化学療法前と比べ化学療法後でBeclin1の発現が増加することを明らかにした。さらに上咽頭癌細胞株であるCNE2やC666-1を用いた実験で、これらの細胞に頭頸部癌のキードラッグであるシスプラチンを加え、ウィスタンブロッティングでBeclin1の増加を認めた。また細胞活性を調べるMTTアッセイで、上咽頭癌細胞にシスプラチンを加え、オートファジー抑制物質を加えると、加えないときより細胞死が増えるという結果を得た。
|