研究課題/領域番号 |
25670719
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宋 文杰 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (90216573)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 血管条 / チャネル |
研究概要 |
本研究では、スフィンゴミェリン(SM)によるカリウムチャネルであるKCNQ1の調節機構を解明することを目的にしている。従来の知見では、SMがKCNQ1に直接作用するか否かは不明なため、まず単一の細胞でスフィンゴミェリン合成酵素(SMS1)活性を操作して、KCNQ1活性に変化が見られるかを検討した。そのために、カリウムチャネルを低いレベルで発現しているHEK293-T細胞をモデルに用いた。この細胞にKCNQ1とそのベータサブユニットを同時に発現させると、対照群に見られない、ゆっくりと活性化し、不活性化しない電流が見られ、典型的なKCNQ1電流と同定できた。SMによるKCNQ1電流の調節の有無を調べるために、SMS1の活性を変えることで調べることにした。まず、SMS1の阻害剤であるD609の効果を調べた。結果、D609が電流密度を対照群の30%以下に低下させた。また、電流の活性化が早くなり、対照群の電流に見られる変曲点の存在が消失した。これらの変化は、SMS1活性を抑制すると、KCNQ1の発現や性質が変化することを示唆している。しかし、D609はホスホリパーゼ阻害活性も持つため、より特異的にSMS1活性を制御する必要がある。そこで、SMS1の発現を特異的に抑制するshRNAを作成し、それによるKCNQ1の変化を調べた。結果、KCNQ1電流密度は30%以上有意に(n=25, p<0.05)低下した。一方、電流のキネティックスは変化しなかった。以上のことより、SMS1活性がKCNQ1の性質を変えずに、形質膜における密度を調節することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、スフィンゴミェリン合成酵素(SMS1)を欠損させたマウスにおいて、蝸牛血管条辺縁細胞のKCNQ1発現量が低下する知見を背景に、スフィンゴミェリンによるKCNQ1の調節機構を解明することを研究目的にしているが、これまでの知見では、KCNQ1に対するスフィンゴミェリンの作用は直接的なのか、間接的なのか不明である。上記研究実績の概要から分かるように、昨年度の研究により、単一の細胞で、SMS1活性の操作がKCNQ1活性の変化に繋がることを示してきた。これは、KCNQ1に対するスフィンゴミェリンの作用は単一の細胞の細胞内シグナル伝達系による直接的な作用であることを強く示唆している。従って、これらの知見は本研究で提案した仮説を証明し、これからの研究を推進するための礎を作ったと言える。これは本研究提案を推進していく上で、最も重要なことである。よって、当初計画した研究がおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、SMS1活性がKCNQ1の性質を変えず、形質膜における密度を調節することを示してきたため、今後まず、これまでと同様なモデル細胞を用いて、SMS1活性の変化がどのようにKCNQ1の活性の変化に繋がるかを探索していく。一方、実際の蝸牛血管条辺縁細胞において、SMS1活性とKCNQ1活性がリンクしているかを知ることが重要である。それを調べるために、蝸牛血管条のin vitro標本を作製し、探索を行う。 さらに、本研究で探究しているSMS1によるKCNQ1の調節が動物にとってどのような意味を持つかを知ることも重要である。この問題を検討するために、SMS1活性がどのような外界刺激に応じて変化するのかを知ることが重要である。SMS1はハウスキーピング遺伝子であるため、その発現はほとんど変化しないと考えられるが、最近の様々な分野の研究により、SMS1活性が組織の状況に応じて変わることを示唆する知見が報告されるようになってきた。SMS1によるKCNQ1調節系の生理的意義を解明するために、SMS1が様々なストレス刺激に、どのように応答するかを探索していく予定である。 上記研究の推進により、SMS1とKCNQ1の関係が解明されるのみならず、ストレスによる難聴の分子基盤の解明にも繋がる可能性が考えられる。それが証明されれば、ストレスによる難聴の予防に有効な手法を開発することも考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの研究で、単一細胞でSMS1によるKCNQ1の調節を明らかにしたので、次年度はその分子機構の解明が主要なテーマとなり、高価な薬品の購入が多く必要と予想されるため、研究に必要な物品や薬品の一部は従来研究室に在庫していた物を利用し、物品費を次年度で多く使用できるようにするために、残額を残した。 SMS1によるKCNQ1の調節機構を解明するために、様々なシグナル伝達経路を促進したり、阻害したりした場合の結果を調べる必要がある。これらの実験を行うための薬品は数ミリグラムで10万円近くまでかかる物が多く、前年度の残額と今年度に請求した助成金はこれらの薬品の購入や、細胞培養と電気生理に必要な物品の購入などに使用する。また、学会参加のための旅費や論文の印刷代などにも使用する計画である。
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