内耳の発生および細胞分化はかなり複雑で、内耳の発生学的、細胞生物学的研究の取り組みには実験的方法・材料が不足しているのが現状であった。そこで本研究では、内耳の発生を試験管内で再現・模倣し、それらの細胞が形態形成を行うプロセスを解明すべく、内耳幹細胞(耳胞細胞otic vesicle cells:OVC)を用いたin vitro内耳発生モデルを構築し、内耳発生に寄与するWntシグナルに着目した研究を行うことを目的とした。 まず初年度(平成25年度)、マウス胎児由来の耳胞細胞(OVC)の単離・培養に着手し、増殖活性の高いcloneを選択後、株化細胞(OVC1)を樹立した。さらに、培養条件を検討後、OVC1の未分化状態を維持しながら長期間培養可能な条件を見出した。最終年度(平成26年度)では、この細胞株を用いたin vitro分化誘導を行うことで、内耳発生におけるWntシグナルに着目した細胞の分化特性を解析した。 これまでに、我々は胚性幹細胞(ES細胞)から内耳有毛細胞への分化誘導には、ある種の細胞株の培養上清が分化促進に働くことを明らかにしていた。そこで我々は、分化誘導のエフェクター細胞(EFC)として、種々の細胞株との共培養により、OVC1の分化誘導を試みた。その結果、ある種の細胞株との混合培養により、OVC1由来細胞から誘導された有毛細胞様細胞の出現効率が飛躍的に亢進した。さらに、各種Wntの添加培養により、その効率が異なることが明らかとなり、Wntシグナルが有毛細胞の分化誘導に影響していることが示唆された。
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