研究実績の概要 |
一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、硫化水素(H2S)など生体内で産生される低分子ガス状物質は生体恒常性維持に重要な役割を担っている。本研究では、NOに加えてCO, H2Sなどのガス分子の網膜循環への作用を検討した。 NOに関しては、有用な結果がいくつか報告された。すでに臨床応用されているベラプロストが血管内皮からのNO産生を介して網膜血管を拡張させることを見いだした(IOVS, 2014).また、脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインのなかで臓器保護的に働く善玉アディポカインのアディポネクチンの有用性に着目し、実際に摘出網膜血管にアディポネクチンを投与したところ、血管内皮細胞からのNO産生亢進を介した血管拡張作用が認められた(IOVS, 2013)。さらに、ネコin vivo生体実験系を用いた実験で、フリッカー刺激時の網膜血流増加反応に神経型NO合成酵素により産生されたNOが重要な役割を果たしていることが初めて明らかとなった(IOVS, in press)。このように、低分子ガスであるNOの網膜循環調節因子としての役割は大変重要であることが再確認された。 一方、COおよびH2Sに関しては、残念ながら有用な結果を得ることができなかった。 摘出ブタ網膜細動脈にCOおよびH2Sのドナーを投与したところ、網膜血管拡張作用は認められなかった。また、ネコin vivo生体実験においた実験でも同様であった。 網膜循環においては、NOの循環調節因子としての役割は多臓器に比べてかなり大きいことが再確認された一方で、脳血管のようにCOおよびH2Sによる血管拡張作用が認められなかったことから、低分子ガスによる循環調節機構には臓器特異性があると考えられる。 もう一つの問題点としては、COおよびH2Sのドナーの有効性がある。現時点ではよりガス産生効率の高いドナーが開発されており、今後新しいドナーを用いて再検討する必要があると考えている。
|