前年度にはC57マウスを用いて、視覚刺激遮断による病的近視モデルを作成したが、マウス眼球は小さく、強膜組織周囲への細胞移植手技が困難であることが欠点であった。そこで平成26年度にはラットを用い、片眼遮蔽により眼軸長延長を伴う病的近視モデルの作成を試み、生後3週令のラットに片眼の瞼々縫合を行うことにより再現性をもって安定したモデルの作成に成功した。透過型電子顕微鏡を用いた観察により、視覚刺激遮断を行っていないコントロール眼と病的近視眼の強膜組織構造を比較検討したところ、特に強膜の外層において、病的近視眼における強膜コラーゲン細線維の狭小化が観察された。 つぎに、ラットに、免疫抑制剤を投与して飼育したのちに、ヒト間葉系幹細胞を眼球後部強膜に沿って移植を行った。移植1週間後では間葉系幹細胞が強膜外層に沿って生着している様子を確認し、またヒトコラーゲンに特異的な抗体を用いた免疫組織学染色により、移植された幹細胞が同部位でコラーゲンを産生している様子が観察できた。移植3週間後では、間葉系幹細胞は観察できなかったが、産生されたコラーゲン線維は認められた。間葉系幹細胞を移植されたラットの病的近視眼では、屈折度の近視化が有意に抑制されるとともに、眼軸長の延長も有意に抑制されていた。光学顕微鏡所見でも細胞を移植されたラットでは強膜の肥厚が観察された。以上から、ラットは病的近視の動物モデルとして有用であり、強膜後方への間葉系幹細胞の移植により局所でコラーゲンが産生され、病的近視を抑制できることが示された。
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