Srcはセリン75のリン酸化により活性化型の分解が制御される。このセリン75を常にリン酸化が起きている状態となるようなアミノ酸と置換したSD変異マウスは、正常眼圧だが老齢化に伴い緩やかな網膜神経節細胞(RGC)の障害が進行する。このSrcに特異的なリン酸化の脱制御によるRGC細胞死の機序を明らかにするため、初年度では2D-DIGE 蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動システムを構築し、本年度は確立した2D-DIGEシステムを用いて、老齢SD変異型にのみ存在する或いは消失するタンパク質を同定するため、網膜のリン酸化タンパクを網羅的に解析した。 (1)網膜リン酸化タンパク質の精製:網膜を単離し液体窒素中で急速凍結、マイナス80度保存した網膜から超音波破砕法により得たタンパク質を固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィーにかけてリン酸化タンパク質を精製した。(2)固定化pH勾配ゲル二次元電気泳動の方法:野生型網膜試料を用いてpH4-7における泳動条件等を検討し、高い分離と再現性が得られようになった。(3)スポットの同定、定量比較法:10個の野生型とSD変異型の各網膜よりリン酸化タンパク質を精製し、Cy3標識した野生型とSD変異型の等量混合試料を内部標準とした。内部標準と同量のCy5標識した野生型試料を一つのゲルで泳動、他のゲルでこの内部標準と同量のCy5標識したSD変異型試料を泳動し、野生型とSD変異型の同一スポットの相対強度を比較した。(4)推定分子量約45kDa、等電点約6付近のスポット#30が野生型よりも有意に増加していることが明らかになった。 これらの成果は、セリン75変異で変動する網膜リン酸化タンパク質の質量分析による同定の基盤となり、RGC細胞死の分子的機作を明らかにするうえで重要な意義がある。
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