研究課題/領域番号 |
25670735
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷原 秀信 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (60217148)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 二光子顕微鏡 / 結膜損傷 / 好中球 |
研究概要 |
われわれは2光子顕微鏡を用いた結膜下組織の生体イメージングの系を確立し、トラベクレクトミーによる結膜下組織の炎症および創傷治癒反応が生じる際の免疫細胞の動態を明らかにすることを目的に本研究を行った。実験に使用したのは Lysosome M-EGFPマウスであり、 主に好中球が緑の蛍光色でラベルされている。吸入麻酔はイソフルラン2%を1.5~3L/minで用い、顕微鏡はLeica社製2光子励起顕微鏡 (正立)およびNikon社製2光子励起顕微鏡(正立)を使用した。また画像解析ソフトとしては、Imaris image analysis softwareおよびAfter effectを用いた。手術は全身麻酔の後に10-0ナイロン(丸針)を結膜下に通糸、縫合した。撮影も全身麻酔下で行った。まず観察の障害となる毛を切除した後に頭部を固定器で固定し、プラスチック製の自作アイカップを装着して生理食塩水で眼球を浸した。次に対眼の眼窩静脈叢に赤色蛍光デキストランを注射して血管を造影し、撮影を行った。固定条件、レーザー光の条件、撮影深度などを最適化した結果、生体結膜下において好中球の動きを連続的に捉えることが可能であった。さらにナイロン糸縫合による結膜損傷によって、術後6時間まで時間依存的なLyssosome M陽性細胞の増加が確認された。得られた画像を動画解析したところ、Lysosome M陽性細胞の数および遊走スピードが経時的に有意に増加していることが確認された。このことから、ナイロン糸縫合による結膜傷害は結膜下に炎症細胞を誘導するという現象を、生体内でリアルタイムにイメージング可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに経験の無い結膜下組織の四次元イメージングであり撮影条件の設定に相当の時間を要したが、結果的に要した時間は想定内であり、撮影された画像も定量評価にむけて十分なクオリティーを有していると考えられた。また撮影時間も6時間まで観察可能であったため、創傷治癒の動的変化を捉えることが可能と思われた。10-0ナイロンを用いた創傷モデルも炎症細胞の遊走を惹起するのに十分で、これまでのところ一定の再現性がある印象である。動画解析ソフトを用いた炎症細胞のダイナミクスを定量的に評価する試みも、統計学的な解析を含めて問題なく遂行可能であった。得られた動画データの科学的な評価に定量解析は必須であり、本解析が結膜下組織の炎症細胞に対しても可能であることが証明されたことは、今後の研究手法に大きな広がりを与えるものと考えられる。本研究は従来の組織学的手法や細胞生物学的手法と4 次元イメージングの手法を組み合わせることでこの問題を解明する端緒となると考えられる。このことによって炎症細胞の動態をコントロールする薬剤のターゲット因子を同定できる可能性があり、将来的な臨床応用に伴って緑内障手術成績を改善し、このことによって失明に至る緑内障患者を減らす治療方法につながる可能性を内包した研究計画と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
確立された2光子励起顕微鏡による結膜下組織の4次元イメージングを用いて、さらに創傷治癒のメカニズムを追求する。房水MCP-1 が緑内障術後瘢痕化に及ぼす影響を検証するために、MCP-1 含有HEME ゲルを作成し、CX3CR1-EGFP マウス結膜下に留置する。1時間後、7日後、14日後でゲル辺縁の4次元イメージングを行い、反応する炎症細胞の動態を観察する。可能であれば、同時にCCR2阻害剤結膜下注射や同様の作用を持つプロパゲルマニウム内服によって、その炎症細胞のコントロールが可能か検証する。 時間的に可能であればマウス濾過手術モデルを確立する。その後、前述のトランスジェニックマウスに緑内障濾過手術を行い、手術部位の炎症細胞の動態の観察を行う。組織学的な検討も適宜加える。またIn vitro 実験における結膜下線維芽細胞の細胞生物学的解析も予定している。結膜下の炎症反応・瘢痕化はリンパ球の遊走に始まり、マクロファージの遊走・活性化を経て線維芽細胞の増殖・形質転換を来すことで、細胞外マトリックスの過剰産生が生じることに帰結すると報告されている。緑内障術後の結膜下組織を考える上で線維芽細胞は重要な役割を果たすが、トランスジェニックマウスにおいてはその性質が変化している可能性があるため、本研究においても検討が必要である。上述のトランスジェニックマウスに分布する結膜下線維芽細胞を単離、培養し、その性質が野生型と異なっているか検証する。検討項目はコラーゲン、ファイブロネクチンなど細胞外マトリックスの産生能、増殖能、α-SMA 発現である。さらにこれらの細胞にTGF-β2で刺激することでin vitroにおける炎症暴露の擬似的環境を与えた上で、上記項目の変化について比較検討する。
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