食塩感受性高血圧とは、食塩摂取により惹起される高血圧症である。この病態に関わる重要な臓器組織は、神経系(中枢と末梢)、心臓、腎臓および血管である。最近、リンパ循環系もこの食塩感受性高血圧の病態生理に役割を果たすことが報告された。すなわち高食塩を負荷された動物において、マクロファージ由来リンパ管新生因子は、皮下の毛細リンパ管過形成を惹起する。この毛細リンパ管過形成は、高食塩負荷による組織間隙液の不均等分布を解消し高血圧に代償する。しかし、毛細リンパ管に連結する集合リンパ管の高食塩負荷に対する機能特性変化は、全く明らかにされていない。本研究の目的は、食塩感受性高血圧モデル動物の集合リンパ管機能を解析し、そのリンパ循環改善による食塩感受性高血圧の新規治療法の開発的研究を行うことである。 食塩感受性高血圧症におけるリンパ循環系の関与を解明するために、モデル動物(ラットならびにマウス)を用いて研究を行った。動物を正常食塩食群(NSD)と高食塩食群(HSD)に分け、食塩負荷後に集合リンパ管を摘出しex vivo実験において、集合リンパ管の収縮機能を評価検討した。その結果HSDは、1)ラット腸骨リンパ節輸入リンパ管の収縮力とポンプ作用増強を誘起する、2)ICRマウス腸骨リンパ節輸入リンパ管の収縮頻度増加によるポンプ作用増強を誘起する、3)ICRマウス集合リンパ管の浸透圧感受性Cl-チャネルおよびTRPVチャネルの反応性を変調させることが判明した。本研究によって、リンパ循環系は、HSDに対しての適応反応することが明らかとなり、リンパ循環系が食塩感受性高血圧症の治療の新たな標的となることが示唆された。
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