研究課題/領域番号 |
25670766
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
井上 貴昭 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60379196)
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研究分担者 |
角 由佳 順天堂大学, 医学部, 准教授 (40403084)
西山 和孝 順天堂大学, 医学部, 助手 (80648296)
田中 裕 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90252676)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 気道熱傷 / バイオマーカー / IL-6 / 酸化ストレス / 抗酸化能 / ATP / DIC |
研究実績の概要 |
対象を気道熱傷の有無に関わらず広範囲熱傷として,白血球機能を評価しうるバイオマーカー各種の有用性を検討した。気道熱傷症例を含む熱傷症例について来院時に全血採血(EDTA加スポッツ2mL+Heparin加スピッツ5mL)を実施し、①活性酸素・フリーラジカル自動分析装置(FRAS4:Wismarll Inc)、②EAA測定装置(東レ・メディカル)、③ELISAを用いた簡易IL-6キット(Ray-Fast:東レ・メディカル)を用いて、各種バイオマーカーを経日的に測定した。またフローサイトメトリーを用いて、ミトコンドリアATPの専用特異抗体を用いて、熱傷患者におけるATP発現率を求め、健常ボランティア7名と比較した。 重症熱傷9例を対象とした(N=9, 67±7歳、Burn Index26±30)。気道熱傷の合併は、重症3名、軽症1名であった。死亡例は4例(気道熱傷合併例3例、非合併例1例)であった。IL-6はいずれの症例も受傷3日目までをピークに超急性期のinitial impactを反映する一方で、受傷5日目以降は敗血症合併時を含め、高値を示すことはなかった。過剰酸素産生能を反映するdROM、及び抗酸化物質産生能を反映するBAPについては、熱傷受傷超急性期には気道熱傷の有無、あるいは生命予後の有無で変化を認めず、亜急性期の敗血症合併時の変化が顕著であった。対象2症例、急性期総6ポイントについてのみミトコンドリアATP活性を測定した。ATPは熱傷患者で有意に高値であった(451±51vs. 282±19, p<0.05)。 熱傷受傷直後のバイオマーカーとして、IL-6がinitial impactとしての重症度を反映し、特に熱傷面積が評価されない気道熱傷症例における有用性が示された。酸化ストレス、抗酸化能については、敗血症合併時の評価としての有用性が高いと考えられたが、白血球のviabilityを示す可能性もあり、生命予後の予測指標となる可能性が示唆された。また測定dataは少ないが、熱傷患者急性期におけるATP活性の高値が明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年、様々な安全対策の普及により、重症広範囲熱傷は減少傾向にあり、更に気道熱傷の件数も減少している。当施設でも、本年度は重症気道熱傷は1例のみであり、手術を要する広範囲熱傷は3例に留まった。そのため、必要サンプルの確保が困難であり、全体として研究の進展状況に遅れをとることとなった。今年度はこれまでの重症気道熱傷を含めた広範囲熱傷9例について、-80℃保存検体も用いて測定可能なバイオマーカーについて測定を実施した。 一方で、生体侵襲のさえたる症例としての熱傷は、敗血症、DICなど様々な合併症を有する代表的な救急領域における侵襲病態である。特にDICを合併する敗血症の死亡率は40%以上と報告されており、熱傷患者においても注目するべき合併症である。本年度は自験例をreviewし、DIC合併率や発症時期についての一定の知見を得た。また熱傷初期診療のカギとなる輸液管理について、ガイドラインの変更に伴い、過去の症例をreviewし、誌上発表する機会を得られた。この2点に関しては本年度における成果として評価できる。次年度は白血球機能、アデノシンレセプター活性に焦点をおき、評価を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
熱傷重症度や生命予後を反映するバイオマーカーについて、いまだ定まったものが限られており、本研究で明らかにされていく知見は極めて重要と考えられる。近年市販されている各種バイオバーカーは、主に白血球機能を反映するものが多く、貪食能を反映するPresepsinや、過剰酸素産生能を反映するEAAに加えて、我々がこれまでに報告した白血球レオロジーとしての変形能が代表的である。これらは熱傷患者の急性期変化についてはいまだ明らかにされておらず、今後も急性期の経日的変化と病態との関係を含めて明らかにしていく。 加えて、我々のこれまでの広範囲熱傷患者30例の解析では、実に16例(53%)にDICの合併を認め、また発症日は2±1日という、受傷急性期に生じており、非敗血症性DICの側面が高いことがわかった。DIC合併例の重症度と予後、更にはバイオマーカーとの関連性について今後検討を実施したい。 更に症例の限定と、検体測定の時間的制限からなかなか急性期に経時的測定が困難なA3ADR, A2ADR測定を可能な限り実施するように努めたい。
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