研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究では、近年注目されているゲノム編集(Genome Editing)法と、細菌の持つバクテリオファージに対する獲得免疫機構であるCRISPRのスペーサー配列情報に基づいて、特定の菌のみの遺伝子破壊を誘導できる人工ファージを創出するための技術を開発することを目的とした.そこで、本年度は、まずこれまで使われているゲノム編集法のTALENおよびCas9のシステムをA群レンサ球菌の遺伝子破壊に用いることができるのか否かについて検討を加えた.A群レンサ球菌の染色体上の病原性遺伝子をターゲットとし、それぞれTALENでの標的部位、Cas9の標的部位をin silicoで決定し、発現プラスミドを構築した.その発現プラスミドおよび標的遺伝子を組み込んだプラスミドを大腸菌に導入し、それぞれのプラスミドのマーカーの耐性遺伝子を指標として遺伝子破壊効果を確認したところ、TALENでは充分な効果が認められなかったが、Cas9を組み込んだ系では、1つの遺伝子について設計した4つの標的部位に対して3つの部位で、組み込んだ標的遺伝子プラスミドを完全に破壊できることが明らかとなった.ついで、これらのCas9発現プラスミドをA群レンサ球菌特異的な発現誘導プラスミドに導入したところ、A群レンサ球菌においても同様に形質転換体の出現をほぼ完全に抑制することができたことから、Cas9を用いた遺伝子破壊系は、効率的に染色体破壊を誘導することが示された.
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の目標としていた染色体遺伝子の破壊まで誘導することのできる認識配列を決定することができた.当初の目的としていたTALENを用いた遺伝子破壊系については、充分な効果を得ることはできなかった.これは、A群レンサ球菌の遺伝子配列のGC含量が平均38%と低く、特にチミンの連続配列が多いことからTALENの認識配列としては十分な認識配列となっていなかった可能性がある.一方、Cas9の系については、Cas9がもともとレンサ球菌属で保存されているシステムであり、PAM配列も明らかにされていることから比較的安定的な認識配列を選択できたことにより、効果的な遺伝子破壊誘導が起きたと考えられる.また、TALENの場合は、FokIなどの制限酵素認識配列が中心となり、その前後の配列が必要となるため、80-100塩基程度の認識配列が必要となるが、Cas9の場合はPAM配列を含めて30塩基程度で認識されるため、比較的設計の自由度も高く、1つの病原遺伝子についても1kb程度の遺伝子であれば複数の認識配列をターゲットとして用いることができるために効果的な配列を選択できたと考えられる.ただし、A群レンサ球菌については、従来、細菌の遺伝子誘導発現系として用いられているlactoseオペロンによる誘導については誘導がかからないため、Nicin誘導系を使う必要があるが、Nicin誘導系には別の制御因子を組み込む必要があるため、実用的ではない.今後はこの点を改善する必要があると考えている.
平成25年度までに効果的な遺伝子破壊システムが機能することが示唆されたため、平成26年度は以下のように実験を進めていく.1. Homologous recombinationを用いた遺伝子導入. レンサ球菌のゲノム上にあるプロファージ領域へCas9カセットの導入については、pSET4Sを用いたsingle cross over法によりファージの病原性カセット部位への導入を行う.また、レンサ球菌のファージの中には溶原化・環状化を繰り返し、エピソームとして振る舞うファージもあるため、このファージを狙う場合は、attPサイトを導入したCaspプラスミドを形質転換することにより、組み込ませる.2. ドナー菌株からのファージの誘導と精製. 目的のプロファージ領域にCas9カセットを組み込ませたドナー菌株に、マイトマイシンあるいは紫外線刺激により、ファージを放出させる.この条件は、各ファージによって異なるが、過剰な刺激によっても放出が認められなくなるため、条件を十分に設定する.またファージ粒子の効果的な産生を誘導するため、宿主細胞との共培養系も導入する.3. リコンビナントファージによるレシピエント株での変異導入と増殖抑制効果.本研究では、導入されたファージによる形質が、TALENのみでは分からないため、抗生物質耐性遺伝子(pSET4SにコードされているスペクチノマイシンあるいはpSET-Kmにコードされているカナマイシン耐性遺伝子)をマーカーにして、レシピエント株での導入効率、増殖抑制効果について解析を行う.
当初予定していたTALENによる実験系では、作成するオリゴが長鎖になる予定であったが、Cas9による実験系が予想以上に効果があったため、実験系をCas9による実験系に変更したため、合成オリゴの費用が若干下がったためわずかな余剰が発生した.平成26年度では、A群レンサ球菌のファージ領域への遺伝子破壊カセットの組み込みを行うが、プロファージ領域への組み込みには、本来2000塩基程度の末端領域にシングルクロスオーバーを用いて8000塩基以上の領域を組み込むことになる.そのため、その確認のために余剰のオリゴは必要となる.
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