研究課題
挑戦的萌芽研究
単球系細胞から破骨細胞への分化には、骨芽細胞が発現するM-CSFとRANKLが必須であると考えられている。最近、M-CSF受容体リガンドとしてIL-34が発見された。我々は、IL-34は脾臓血管と骨の血管の一部で発現していること見出し、IL-34とM-CSFの双方が破骨細胞前駆細胞の維持と血流を介する移動に関与することを示した(PNAS 109:10006-11, 2012)。また、脾臓に貯蔵される単球系細胞が心筋損傷部位へ遊走したり、がん病巣部へ遊走することで、病態の進行を制御することが明らかになっている。本申請研究は、脾臓-血管-骨の多臓器連携を担うIL-34と遊走因子Xを標的として骨形成と骨形成の調節を試み、新規治療法開発へ挑戦することを目的として実験を行った。その結果、(1)脾臓摘出マウスを用いた骨代謝における脾臓の役割の解析を行ったところ、脾臓を摘出するとM-CSF欠損マウスでは完全に破骨細胞および破骨前駆細胞の骨における出現が抑制されたが、野生型マウスにおいてもわずかに抑制された。したがって、脾臓が骨代謝に関与していることが示唆された。(2)脾臓と骨のIL-34陽性血管内皮細胞の性状解析および遊走因子Xの探索を行った。IL-34陽性血管内皮細胞とIL-34陰性血管内皮細胞の遺伝子発現プロファイルの比較により、分泌タンパク質または膜タンパク質をコードする遺伝子において発現量の異なるものが複数得られており、現在機能を解析中である。(3)加齢に伴うIL-34の発現上昇に関する分子機構を解析するため、IL-34陽性血管内皮細胞の長期培養を行った。培養を長期行うと、IL-34の発現が減少した。現在、解析に適した培養条件を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記した研究実施計画についてすべて実施することが出来た。実施計画(3)については、IL-34陽性血管内皮細胞の培養条件設定が難航し、老化現象をin vitroで再現出来ていないため、分子機構の解析が遅れている。一方、実施計画(1)と(2)については、順調にすすんでおり、データを解析中である。
申請書の実施計画(3)加齢に伴うIL-34の発現上昇に関する分子機構を明らかにするために、IL-34陽性血管内皮細胞の長期安定培養法を確立する。次に老化に伴うIL-34遺伝子領域のDNAのメチル化の変化や、ヒストン修飾などのエピジェネティックスな変化について解析する。計画通り、(4)M-CSF受容体上のIL-34およびM-CSF結合領域の同定を行う。M-CSF受容体の様々な欠失変異体を、IL-34またはM-CSFとともにCOS-7細胞内で強制発現させたのち、免疫沈降法によりM-CSF受容体上のIL-34結合領域およびM-CSF結合領域の同定を行う。この結果をもとに臨床応用を視野にいれ、IL-34およびM-CSF阻害ペプチドの合成を行う。(5)IL-34の翻訳後修飾と活性への影響についての解析する。具体的には、血管内皮細胞のNO産生に伴うIL-34中のシステイン残基のS-ニトロシル化や脂質付加などの翻訳後修飾と活性変化の関係について解析する。さらに、(6)遊走因子Xによる破骨前駆細胞の化学遊走活性について調べる。EZ-TAXISCan (ECI社)を用いて遊走因子Xの破骨前駆細胞の化学遊走活性を測定する。
平成25年度の研究遂行において、直接研究費次年度使用額(852,560円)が生じたが、複数の抗体および試薬が、定価より安い金額で購入できたため、次年度使用額が生じた。平成26年度の研究遂行計画において、新規に購入の必要がある研究試薬や器具の費用は計上していたが、実験器具や装置のメンテナンス費用は計上していなかった。ルーチンで使っているマイクロピペットや解剖道具および顕微鏡光源などの劣化が激しく、これらのメンテナンスの必要が急遽生じたため、これらのメンテナンス費用にあてる。
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