研究実績の概要 |
口腔常在菌叢の主体を成すレンサ球菌は各種糖類を代謝(発酵)して乳酸等の有機酸を産生する広義の乳酸菌類に属している。乳酸菌類はプロバイオテイクスとして利用されており、「善玉菌」として「悪玉菌」を駆逐して腸内細菌叢を改善すると言われている。近年、菌体成分をパターン認識する自然免疫系の解明が進み、プロバイオテイクスの自然免疫増強作用が注目されている。そこで、口腔レンサ球菌の自然免疫増強作用を実証して、これらの菌との共生の概念を確立したいと考えて本研究を企画した。 初年度の25年度には、各種菌体成分をヒト口腔上皮細胞培養系に添加して、各種抗菌因子誘導能を検討した。その過程で、活性型ビタミンD3と菌体成分を組み合わせると、明確な誘導作用が認められることを見出した。そこで、本研究プロジェクトを進める基盤として、ビタミンD類の抗菌因子産生誘導能を改めて詳細に検討した。その結果、次のような知見を得た。1)ヒト口腔上皮系細胞としてCa9-22, HSC-2, HSC-3とHSC-4を供試したところ、いずれもビタミンD類に応答して抗菌因子を産生した。2)抗菌因子としてデイフェンシン類のHBD-2とHBD-3、カテリシジンのLL-37産生誘導を検討した。その結果、LL-37誘導が最も顕著であった。3)活性型ビタミンD3アナログのOCT(中外製薬より分与)でCa9-22を刺激するとLL-37遺伝子発現を誘導するばかりでなく、ELISA分析で6日目までLL-37の産生誘導が経日的に増強した。 今後は、初年度で絞り込んだ口腔レンサ球菌種ならびに関連標品とビタミンD類を組み合わせてCa9-22細胞を刺激してLL-37を始めとする抗菌因子産生誘導能を詳細に検討して、口腔レンサ球菌の口腔粘膜恒常性維持機構の一端を証明したいと考えている。
|