研究課題/領域番号 |
25670822
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
市川 哲雄 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (90193432)
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研究分担者 |
友竹 偉則 徳島大学, 大学病院, 准教授 (70263853)
水澤 典子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (80254746)
吉本 勝彦 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (90201863)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | micro-RNA / ストレス負荷 / 圧縮力 / マイクロアレイ解析 / miR-494-3p / FGFR2 |
研究概要 |
近年、メカノバイオロジーは歯科補綴学領域において非常に重要な分野とされている。当教室でもインプラント周囲骨に対するストレス刺激の影響を検討するためマウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)への圧縮力負荷に対する作用機序を解明する研究を行っており、以前にERK経路を介するHsp25発現の上昇を報告した。しかし、いまだ未知の部分が多数あり、ここにmicro-RNAなどのエピジェネティクスな遺伝子調節経路が関与している可能性は高い。 今回、各種ストレス処置を行った細胞のRNAを抽出しマイクロアレイ解析を行ったことで、特定のストレス刺激条件下でのmiRNAの発現変化を網羅的に確認することができた。今回は、この中で特にメカノバイオロジーにおいて重要な、圧縮力の負荷で変化するmiRNAを検討した。変化したmiRNAについては、ヒト・マウス間にて保存されているもの選択したことで、より臨床状態へ近づけ、qRT-PCRでは、マイクロアレイ解析での発現の変化を再確認した。 miRNAの標的候補としては、3種のデータベースで検索し、共通して得られるものを選択するとともに、臨床に即するためヒト・マウス間で共通の標的とした。検索にて、圧縮力の負荷で上昇するmiR-494-3pの標的候補にfibroblast growth factor receptor 2(FGFR2)が得られた。FGFR2は骨芽細胞の増殖・分化・生存に関わってくる遺伝子であり、圧縮力負荷の下mRNA、タンパク質レベルともに低下することより標的遺伝子である可能性が高く、実際にレポーターアッセイ等で標的遺伝子であることが確認できた。 これより、MC3T3-E1への圧縮力の負荷によるFGFR2の低下には、miR-494-3pの制御が関与しており、これが細胞の増殖・分化・生存等へ関与している可能性は高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MC3T3-E1に対し、TNF-α、Hypoxia、圧縮力を加えた後、RNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行った。圧縮力を負荷した細胞で、1123 種のmiRNAの内、55種の miRNAで1.5倍以上の発現上昇、57種のmiRNAで1.5倍以上の発現低下が認められた。発現上昇が認められたmiRNAのうち、ヒト・マウス間で保存されているものを、qRT-PCRによって検証したところ4種のmiRNA (miR-494-3p、miR146a-5p、miR-210-3p、miR1247-3p)でマイクロアレイと同様の結果が得られた。 発現上昇するmiRNAの内、高発現のmiR-494-3pについてTargetScan、MicroRNA.org、MIRDBで標的の検索を行ったところ、ヒト・マウス共通して比較的上位に位置する標的候補としてFGFR2が予測された。FGFR2は圧縮力の負荷によって、qRT-PCRでmRNAレベルの発現低下、ウェスタンブロットでタンパク質レベルの発現低下が認められた。miR-494-3pの標的遺伝子として予想されたFGFR2が実際に標的であることを検証するため、FGFR2の3’-UTRをルシフェラーゼ遺伝子の下流に組み込んだレポーターベクターにてレポーターアッセイを行った。これらをmiR-494-3p mimic又はinhibitorとともにコトランスフェクションするとmimicによるルシフェラーゼ活性の低下が認められた。加えて、3’-UTRのmiRNA結合部位2カ所へ変異を加えた変異型ではルシフェラーゼ活性の低下は認められなかった。inhibitorの添加は、有意差は認められなかったがルシフェラーゼ活性の上昇傾向が示された。一方、miR-494-3pをmimicし、ウェスタンブロットを行ったところ、タンパク質レベルでFGFR2の発現低下が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
今回の実験において、マイクロアレイ解析およびqRT-PCRによって圧縮力負荷により変動するmiRNAを特定し、miR-494-3pがFGFR2を標的としてmRNAレベル・タンパク質レベルで抑制することが確認できた。しかし、実際に細胞に対してどのような影響が生じるかは確認できていない。また、miR-494-3pの発現やFGFR2下流シグナルへの影響を検討することも必要であると考えられる。今後は、MC3T3-E1へのmiR-494-3p発現上昇の影響を検討するため、MTT Assayなどで細胞増殖、Caspase Assayなどでアポトーシスに関する実験を行うとともに、共焦点レーザー顕微鏡により細胞の形態やタンパクの局在に対して観察する。また、ウエスタンブロットでmiR-494-3p発現やFGFR2下流のシグナルについても検討を行う。同様に、マイクロアレイ解析、qRT-PCRにて発現の上昇または低下が認められる他のmiRNAについても、データベースにて標的候補を予測し、このシグナル経路にどのように関与する可能性があるか調査していく予定である。 一方、細胞レベルで圧縮応力で変化するmiRNAについて、バイオマーカーとして臨床応用するために実際の唾液中miRNAについて検討する。今回マイクロアレイ解析とqRT-PCRによって得られた圧縮力により細胞レベルで変化するmiRNAについて、qRT-PCRにて唾液中に比較的多く認められるか検討する。両者に多く認められたmiRNAには、加えて研究計画通りエクソソームに含まれることを検討した後、歯周病・インプラント治療によってどのように変化するかを確認する予定としている。あわせて、研究施行のための情報収集と意見交換を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の実験において、メカニカルストレスに応答して変動するmiRNAを同定し、その中でmiR-494-3pがFGFR2を標的とすることが確認できた。今年度は、以前より検討していた実験と同様の方法で行ったため、予備試験等のPCR試薬や抗体の購入費を少なく抑えることができた。一方、当初の計画ではmiRNAの標的同定までであったが、FGFR2は骨芽細胞の増殖・分化に大きく関与している可能性が高いため、次年度ではmiR-494-3pのシグナル経路や骨芽細胞への影響も検討することとなった。加えて、臨床応用に近づけるため、実際のヒト唾液を用いた実験を行って行く予定であるが、唾液miRNAを検討するためには、予備実験からより感度の高いPCR試薬が必要なことが分かっている。よって発生する次年度使用額をこれらの実験での試薬費に使用する予定である。 miR-494-3pの標的であるFGFR2シグナル経路の検討は、関与する抗体やsiRNAを購入してウエスタンブロットを行う。miR-494-3p のFGFR2以外の標的についても検討する他、圧縮力で発現変動する他のmiRNAも標的候補を検索し、qRT-PCR、ウエスタンブロット、レポーターアッセイを行う。ここでは、PCR試薬や抗体、遺伝子導入試薬、miRNA mimic・inhibitorを購入する。miRNAの細胞への影響を検討する際には、MTT AssayやCaspase Assayを購入し、miRNAをmimic、inhibitして検討する。免疫染色では、染色試薬と抗体を購入し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行う。唾液中のmiRNAを検討はより高感度な試薬を購入しqRT-PCRを行う。また本年度同様、積極的に学会に参加し、発表報告や意見交換を行う予定である。
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