研究実績の概要 |
癌の増殖・浸潤では癌細胞自体のもつ特性だけでなく、癌細胞を取り囲む癌の微小環境との相互作用が深く関わっていることがわかってきた。従来、抗血管新生療法のターゲットとして、VEGF受容体を中心としたサイトカインシグナルの研究がさかんであるが、本研究では、シナプス接着因子のニューレキシン、ニューロリギンが血管の構築に重要な役割を果たすことが報告されたことに着目し、シナプス接着因子の口腔癌における役割を解明し、これをターゲットとした診断・治療法に向けての解析を行うことを目的として、臨床的、基礎的側面から検討を行った。 I. 臨床的探索:臨床検体による口腔癌のシナプス接着因子の発現の検討 筑波大学附属病院歯科口腔外科で手術を行った口腔癌の臨床検体約60例を選択し、シナプス接着因子の抗体を用いてLsAB法で染色を行い、口腔癌での発現の状態を半定量的にスコア化し、臨床病態(性別、年齢、喫煙、TNM分類、Stage分類、分化度、pN、YK分類、予後)との比較をおこなったところ、ニューロリギンでは5年生存率との関連が、発現群の方が予後が良好な傾向が見られた(P=0.05)が、ニューレキシンでは明らかな差はなかった。 II. 基礎的探索:子宮内エレクトロポレーションによる検討と生化学的解析 培養系のshRNAのデータからターゲット候補を絞り、ニューレキシンを子宮内エレクトロポレーションを選択し、細胞膜局在シグナルが付加されたGFPをコードする遺伝子をpCAGGSベクターに挿入したコンストラクトを子宮内エレクトロポレーションによって特異的に遺伝子導入し、神経と血管の変異を調べた。また、CDスペクトルとNMRでの確認からPI(4,5)P2と結合し、ニューレキシンがPKCによってリン酸化され制御されていることが予測された。以上によりシナプス接着因子の口腔癌における意義を検討した。
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