ホウ素中性子捕捉療法はあらかじめ腫瘍に取り込ませたホウ素が中性子を捕捉することで新たに飛程距離の短い放射線を発生し、選択的に腫瘍細胞を破壊する放射線治療である。現状ではホウ素化合物としてパラボロノフェニルアラニン(BPA)を静脈内投与して腫瘍細胞内ホウ素濃度を上昇させるが、BPAの細胞移行にはアミノ酸トランスポーター(LAT)が関与するため、その発現が低下した細胞では十分取り込まれない。また、静止期細胞での取り込みも低い。そこで、高濃度のホウ素を含有する炭化ホウ素(B4C)のナノ粒子を腫瘍内に投与して、中性子を照射する方法、すなわち組織内照射に準じたBNCT(組織内BNCT)を考案し、従来法では効果が得られない腫瘍細胞の破壊を試みた。リン酸緩衝液(PBS)を用いてB4C球ストック液を調整し、ヒト口腔扁平上皮癌細胞懸濁液に50 ppmの濃度でB4C球を添加して中性子照射を行ったところ、生細胞率と細胞生存率のいずれでも中性子単独よりも低下し、B4C球はBNCTのホウ素化合物としての役割を果たした。しかしながら、PBS懸濁液中でB4C球を保存すると次第に凝集塊を形成することから、安定的にB4C球を可溶化する媒体が必要となった。2-methacryloxyethyl phosphorylcholine (MPC)と-butyl methacrylate (MBA)よりなる水溶性、両親媒性ポリマーPMB (商品名Purebright MB) は難溶性抗癌剤の可溶化にも用いられる非刺激性、非毒性の溶媒である。最終濃度5 mg/mlでB4C球を可溶化して滅菌後に、口腔扁平上皮癌細胞との培養を行ったが、細胞毒性はみられなかった。PMB可溶化B4C球は組織内BNCTにおけるホウ素化合物として利用できると考えられた。ただ、京大原子炉の運転中止で中性子照射実験には至っていない。
|