研究実績の概要 |
加齢に伴い老化細胞(senescent cell)が体内に蓄積されること、これら老化細胞が炎症性サイトカイン、ケモカインや細胞外マトリックス分解酵素などを高産生するSASP現象が明らかとなり、慢性炎症、発がんにおける関与が注目されている。本研究では、老化細胞(SASP)産生蛋白に着目し、歯周組織老化細胞の分子病因論の基盤情報の構築を目指した。 歯周組織構成細胞として、ヒト初代培養歯根膜細胞を用いたin vitro老化誘導モデルを樹立した。顕微鏡学的な形態観察並びにFACSによる解析により、老化歯根膜細胞は正常細胞の約2倍の大きさで非薄した特徴をとることが示された。ヒト老化歯根膜細胞はライソゾームの肥大を伴うSA-beta GAL活性が上昇していた。WB法による生化学的な解析により、ヒト老化細胞においては細胞周期制御に関わるp16INK4a-Rb経路並びにp53-p21WAF1経路が活性化された状態にあることが明らかとなった。前述のバイオマーカーにより確認された老化細胞が産生するSASP分泌蛋白について定量、定性解析をおおこなった結果、SASP蛋白としてIL-6,IL-8,MMP種並びに老化歯根膜特異的なSASP蛋白が同定された。 老化歯根膜細胞から採取したフルゲノム、mRNA、蛋白試料についてそのプロファイルの網羅解析を行い、炎症性サイトカインの産生に重要なNF-kappaB活性化の新たな分子シグナル機構が明らかとなった。また、SASP蛋白が歯周組織幹細胞の細胞増殖能、細胞老化、石灰化能並びに炎症性細胞の生理作用に影響を及ぼすことで、細胞間コミュニケーションを制御していることをin vitro実験系を用いて見いだした。 老化歯周組織構成細胞は、SASP蛋白を伴う細胞レベルでの老化を介して高齢者の口腔の自然炎症、発ガンに関与していることが示唆された。
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