研究課題
挑戦的萌芽研究
安静時唾液は口腔内の環境を規定し、口腔機能の円滑な活動に極めて重要な役割を担う。この安静時唾液が減少すると、口腔内疾病の罹患率の増加のみならず、口腔機能不全により栄養摂取から発声までもが障害を受け、口腔内疼痛から生活の質(QOL)を著しく低下させる。本研究では、口腔乾燥症の補充療法に着目し、安静時唾液の性状と機能を検討し、人工唾液・保湿剤を調整して口腔内設置型唾液分泌装置の開発を行い、安静時唾液補充プロトコルの提案を行う。平成26年度は以下の実験を実施した。(1)口腔内唾液の最小必要分泌量の見積:安静時唾液を対象とした実験では、正常嚥下の被検者を対象に、口腔内に一定速度で滅菌精製水を注入し、口腔内環境の変化と自然嚥下の回数、口腔内QOL指標の変化を検索する。始めに被験者の口腔内健康状態を把握した後に、口腔内唾液量・唾液分泌量測定、保湿度評価等の項目を検討した。(2)人工唾液・保湿剤の性状と成分の決定:口腔内保湿に最適な人工唾液・保湿剤の構成要素を検討し、最適な組成を決定する。人工唾液・保湿剤の保湿成分(湿潤成分)として一般的なグリセリンをベースとした人工唾液・保湿剤を考える。(3)人工唾液・保湿剤を補充するタイミングと流量の決定:人工唾液・保湿剤を口腔内に補充する際には、過剰量を投与すると誤嚥の可能性が増加するので、誤嚥を絶対させないために人工唾液・保湿剤が必要以上に供給されないようにしなければならない。その為に、人工唾液・保湿剤の補充速度を口腔内状況に合わせて正確に見積もる必要がある。これは(1)の実験結果も考慮して実験を実施した。
2: おおむね順調に進展している
(1)口腔内唾液の最小必要分泌量の見積の実験からは、安静時唾液を対象とした場合は、嚥下回数は、1mL/min以下の少ない精製水の口腔内注入でも嚥下回数が大きく増加し、嚥下数増加の最小必要分泌量はかなり少量である事が示された。この実験は、安静時唾液の嚥下回数を評価するので被験者の拘束時間が長くなり、条件を振りながらの実験は長期間を要する。さらに、精製水か生理的食塩水の方が実験に良いかの検討事項は残った。(2)人工唾液・保湿剤の性状と成分の決定の実験からは、口腔内保湿に最適な人工唾液・保湿剤の構成要素として一般的なグリセリンをベースとした人工唾液を考えた。とくに頭頚部がんの放射線治療時に激しい口腔炎膜炎が発症時した場合には、グリセリンを基剤とし。キシロカインを麻痺剤として用いた含嗽剤で口腔内疼痛を緩和するが、この成分を考慮しながら保湿状態を検索する評価法を構築中である。(3)人工唾液・保湿剤を補充するタイミングと流量の決定:人工唾液・保湿剤を口腔内に補充する際には、誤嚥を絶対させないために人工唾液・保湿剤が適量で供給されるように厳密に制御しなければならない。その為に、人工唾液・保湿剤の補充速度を口腔内状況に合わせて正確に見積もる必要がある。これを実施するために、口腔内環境の変化と自然嚥下の回数、口腔内QOL指標を含めて評価項目を整理した。実験には、健常者で行う場合は(1)と同様になるので、本年度はこの実験を同時に実施し、口腔乾燥用の患者での検討は来年度に実施する。刺激唾液の分泌量では、特に食事時の食塊形成に必要な刺激唾液量を見積もり、誤嚥を導かない食塊形成に必要な唾液量も検討する。
平成25年度の研究にて、口腔内唾液の最小必要分泌量等に関する知見が得られた。この研究を継続して、更なる情報を集めると共に、その結果から次の研究を開始して口腔内設置型唾液分泌装置の開発を行う。(4)人工唾液・保湿剤の投与方法の開発:これまでの実験結果を統合して口腔内設置型唾液分泌装置の仕様書を製作し、口腔内で人工唾液・保湿剤の分泌を行う装置を開発する。具体的には、義歯を装着している口腔乾燥症の患者の義歯内部に装置を装着するか、口腔内に繋留した人工唾液・保湿剤補充用チューブから口腔外設置型唾液分泌装置から送り出して補充する方法の2つが考えられる。今回は始めに口腔外設置型唾液分泌装置の製作を口腔内設置型の部品を共用して構築し、ノウハウを蓄積した後に口腔内設置型唾液分泌装置を組み上げる。口腔外設置型装置では、性能検査と機器の計測・診断・分泌制御プロラムの開発を行い、基本的オペレーティングシステムが構築された段階で口腔内設置型の組み立てと義歯への埋入を実施する。本装置の組み立ての課題は、高粘性の人工唾液・保湿剤を効率よく送出する液体ポンプの設計とピエゾ素子駆動技術による逆流防止弁の2つであり、それ以外の構成要素は加速度センサやマイクロコントローラを含めて現在の民生用部品で組み立てが可能である。高粘度の液体を搬送する微少ポンプの構造の選択は、実験結果から選択された分泌液組成、および、分泌速度により決定する。口腔内設置型装置の実験を実施する前に、口腔外設置型器機を製作し、それを使用しながら分泌装置が正常に機能し、誤嚥やその他の危険を誘発しないことを確認した後に、口腔内環境改善とQOL評価を実施する。その後、口腔内設置型装置に置き換え、さらに口腔内環境改善とQOL評価を実施する。
平成25年度は、以下の実験を行ったが、唾液の代わりに口腔内を潤す人工唾液の一部の代換えとして滅菌生理的食塩水の使用を、(1)口腔内唾液の最小必要分泌量の見積の実験、(2)人工唾液・保湿剤の性状と成分の決定の実験、(3)人工唾液・保湿剤を補充するタイミングと流量の決定の実験の実験計画当初に考えていたが、実際に口腔内を灌漑してみると味を感じることで、唾液分泌が促進されることが判明し、さらに実施の臨床を考えると、高血圧や腎障害等の理由で塩化ナトリウム摂取制限の患者も多く存在する事が考えられた。よって、持ち運びに便利な滅菌パック済みの生理的食塩水の実験での使用量が減少したので、その分の予算が譲与した。平成26年度の実験にて、(4)人工唾液・保湿剤の投与方法の開発を行うが、その際に口腔外設置型唾液分泌装置と口腔内設置型唾液分泌装置の共用部品の中で、新しい最新型の電子部品が発売され、価格も相応に変化している。さらに、消費税の導入も考慮して、全体の実験計画を再調整すると、平成25年度繰り越し分が丁度吸収されて、実験計画を変更すること無く、最新型の部品を使用することの変更のみで実験実施が可能である。
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