研究実績の概要 |
無刺激のヒト歯肉線維芽細胞(19 PDL)の細胞内グリシン濃度(92 fmol/cell)は、プロリン(28 fmol/cell)、イソロイシン(25 fmol/cell), ロイシン(30 fmol/cell)の約3倍であるが, グルタミン(170-425 fmol/cell), グルタミン酸(140-378 fmol/cell)の約1/3であった。ヒト歯根膜線維芽細胞(15 PDL)、歯髄細胞(17 PDL)も、これらアミノ酸の濃度を同定度含んでいた。一方、ヒト口腔扁平上皮癌細胞(HSC-2)における、これらアミノ酸の濃度は、細胞1個あたり、1/7-1/3であった(13, 8, 9, 10, 51, 82 fmol/cell)。歯肉線維芽細胞、歯根膜線維芽細胞、歯髄細胞中のグリシン:プロリン比は、それぞれ、3.3, 5.7, 2.7であり、唾液中の比率(0.63-0.83)の約5倍であった(投稿準備中)。IL-1βおよび酸化チタンのナノ粒子で歯肉線維芽細胞を刺激すると、PGE2の産生、及びCOX-2タンパク質の発現が相乗的に増加し、炎症が惹起されたことが確認された。炎症を起こした細胞では、オルニチン、S-アデノシルメチオニン、還元型グルタチオンが顕著に低下し、グリシン濃度が約80%低下した(Biomaterials 75, 33-40, 2015)。しかし、グリシン:プロリン比は、ほとんど変動しなかった(3.9から2.7)。炎症をクマザサ葉アルカリ抽出液で抑制すると、PGE2の産生、COX-2タンパク質の発現が抑制され、上記アミノ酸が元のレベルに回復する傾向を示した。以上の結果より、歯肉線維芽細胞から産生されたグリシンとプロリンが、高齢者における唾液中のグリシン・プロリン量の増大の直接の原因である可能性は低いと思われる。終末期の線維芽細胞の培養液中のグリシン・プロリン量の定量、口腔内を殺菌した時の唾液中のグリシンおよびプロリン濃度、唾液によるハイドロキシプロリンの分解の可能性について検討中である。
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