最終年度である本年度は、インタビューデータの分析と論文執筆を行った。インタビューでは多くの事例が語られたため、個々の事例ごとに丁寧に分析を行い、分析の結果を学会で発表することによって、考察を積み上げていった。 本研究では、一般病床に区分される急性期病院の地域医療連携室等の退院調整部門に勤務する退院調整看護師6名と退院調整看護師経験者1名を対象に、インタビューガイドを用いた半構成的対話式インタビューを個別的に行った。インタビューは1人あたり2~4回行った。インタビューデータを読み込みながら、研究対象者の実践経験の類似性に着目し、「折り合いをつける」実践の中心となる概念を導き出した。そして、中心概念をもとに概念間の関連性を考察しながら、実践の記述を行った。 退院調整看護師が行う家族への意思決定支援とは、家族が退院後の患者・家族の生活をイメージできるように支援することだけでなく、退院調整看護師自身が、入院前の患者・家族の生活をイメージし、そのイメージを家族と分有していく作業であった。その作業によって、退院調整看護師は、患者と家族を不可分一体ととらえることなく、ひとりの患者を多様な家族の中のひとりの個人として豊かにとらえ、患者にとっての最善の利益を考えると同時に、患者を含めた家族が家族としてあることができるようにも配慮された判断を行っていた。こうした判断が「折り合いをつける」という実践の様相であり、家族だけに代理意思決定を委ねるのではなく、医療者も含めて、患者に関わる者たちが共に話し合っていくという、共同的な意思決定の仕方を言語化していった。 論文は現在、海外のジャーナルに投稿中のものが1本あり、最終年度の実績報告には間に合わなかった。本研究成果は論文等で今後も広く公表していく予定である。
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