本研究は,自閉症スペクトラム児の感覚の特性に起因した問題行動の改善に向けた基礎的研究であり,3年で行う予定である. 平成27年度は,平成26年度に行った調査結果の分析を行った.結果:対象児には感覚への反応として「好む」「嫌悪」「低反応」があり,反応の偏りは対象児毎に異なっていた.「低反応」は,「無視」や他者への「無関心」に見える行動と関連していた.「低反応」は,活動への参加拒否などのように保育目的が達成されない形で保育上の問題として顕在化しないため,保育士であっても気づきにくく,支援に繋がりにくい事が明らかとなった.「嫌悪」反応が多い児では,活動参加への回避が多く,集団適応が著しく困難であった.以上の事からASD児の感覚の特性に応じた環境調整と支援の工夫が必要と考えた.本研究は,学術集会,児童思春期病棟のある精神科病院および保育園での職員研修会にて成果発表を行った. また,感覚特性に関する支援の方向性を検討するため,フィンランドの保育園1か所,小学校2か所,自閉症児専門病院1か所,自閉症協会および発達障害専門デイケア施設への視察を行った.フィンランドの保育園および小学校では,苦手な感覚にも慣れさせる遊びや活動を行うと同時に好きな感覚を組み込んだ活動も積極的に取り入れ,自己肯定感を高めることにも力を注いでいた.環境面への配慮として,活動内容に応じた複数の部屋の提供,音環境への配慮,徹底した視覚化などユニバーサルな視点から教育環境の整備を施していた.人的環境としても医療,教育,福祉が連携し,各専門的な視点を持ちながら協働した支援を行っていた.本年度の海外視察についても,児童思春期病棟を持つ精神科病院および保育園での職員研修会にて発表し,学会誌への投稿を行った.
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