研究課題/領域番号 |
25671000
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
井出 訓 放送大学, 教養学部, 教授 (10305922)
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研究分担者 |
内ヶ島 伸也 北海道医療大学, 看護福祉学部, 講師 (80364264)
戸ヶ里 泰典 放送大学, 教養学部, 准教授 (20509525)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 介護離職 / 介護負担 / 介護休暇 / ポジティブ感情 / 介護肯定感 / ストレス関連成長 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、介護離職に至った状況や離職に至る経緯の明確化を目標に、前年度に行った介護離職を経験した方々へのインタビュー調査をさらに積み重ね、介護離職に至る様々な契機や個々の対処方法などの特徴を明らかにし、離職せずに仕事を継続していくための手がかりを導き出す計画であった。しかし、前年度インタビューの内容分析を進める中で、離職経験者もそうでない対象者も、抱える状況が様々と多岐にわたり、その中で共通する特徴や影響要因を導き出すことは非常に困難であり、インタビュー調査を重ねるだけその多様性が拡大していくことが懸念された。そこで、平成26年度においては分析の中から見えてきた介護離職に至る経過に影響をあたえる一要因に着目して調査を行い、分析を進めていくこととした。 その要因とは、介護家族が抱くポジティブ感情である。介護離職に関するインタビュー調査において、介護に関して似たような状況にあっても仕事を辞める人と辞めない人がいること、また、似たような状況あっても、介護に対して異なる思いを抱く状況があることがわかってきた。すなわち、認知症高齢者への介護が仕事を圧迫し始める状況に置かれた時においても、その人が介護に対してどのような感情を抱いているのかという捉え方によって、その後の対応や経緯に大きな違いが表れてくる可能性が考えられたのである。そこで平成26年度は、認知症高齢者を介護する介護家族が、実際に介護を通してポジティブな感情を抱くことがあるのか、またどのような時に「介護をしていて良かった」といった感情を抱くのかを調査し、分析を行った。結果、約半数近くの対象者が介護をしていてうれしいと感じるようなプラス感情を抱く経験をしており、介護者に対する被介護者への笑顔や労いの言葉などが、介護に対するプラス反応を感じる時である事がわかった。この結果については、第15回日本認知症ケア学会で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
介護が原因となり離職していく状況の分析から、介護経験から得られるポジティブな感情が、離職の一つの抑止力となる可能性が見えてきていることは、今回の研究から得られている大きな成果の一つであると考えられる。こうした結果は、本研究の目的の一つでもある介護者に対するサポート提供に向けた重要な知見であると言えるだろう。しかしながら、介護を行いながら仕事を続ける人々の介護環境は、その人ごとに異なっており、介護経験から得られるポジティブ感情をサポート提供の一つの切り口として考えていくためには、介護者を取り巻くその他の介護環境との関連の中で検討が続けられていかなければならない。今回の結果は、まだその入り口にすぎない。今後は、介護環境との関係の中でいかにポジティブな感情を高めていくことができるのかを、介護者が抱くポジティブな感情が、介護者が持つ首尾一貫性や効力感、さらにはストレス関連成長とどのような関係があるのかを明確にしていくことから明らかにし、介護離職に関するサポートのあり方を検討していくことが必要となるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
介護経験から得られるポジティブ感情に関する調査の検討結果を受け、現在、介護家族を対象とした介護経験に関する関連要因の調査を進めている。これは、認知症の人を介護する家族が、介護というストレスフルな経験から、どのような変化を示しているかをポジティブな視点から捉えていくことを狙いとしている。調査項目としては、介護環境に関する属性とともに、ストレス関連成長、一般性自己効力感、首尾一貫性感覚、健康レベルなどの要因との関係性を明らかにすることを中心に調査を行っている。今後は、この調査の分析を進めることから、介護家族のポジティブ感情や成長に影響をあたえる要因を導き出すとともに、介護離職に直面する人々が職を離れるという選択を取らずに、介護と仕事を継続させられるためのサポートシステムに重要となるあり方の検討を進めていく計画である。また、導き出された研究成果を学会等で発表していくことも、最終年度に向けた計画の一つである。
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