研究課題/領域番号 |
25671008
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 聖マリア学院大学 |
研究代表者 |
溝部 昌子 聖マリア学院大学, 看護学部, その他 (00625684)
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研究分担者 |
宮田 哲郎 東京大学, 医学部附属病院, その他 (70190791)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高齢者 / 下肢血流 / ドップラー血流計 / 歩行機能 / 末梢動脈閉塞性疾患 / 閉塞性動脈硬化症 / 虚弱高齢者 / 日常生活自立度 |
研究概要 |
病院、介護老人保健施設(以下老健)に入院及び入所している高齢者46人に対し、下肢、足部動脈触知、ドップラー血流計を用いたABI(上腕/足首血圧比)測定、疾患治療、看護介護状況の情報収集をおこなった。対象者の所在は病院31人、老健16人、年齢平均82.1歳、中央値81歳、女性29人男性17人であった。PS3:18(38.3%),PS4:16(36.2%)人、障害高齢者の日常生活自立度B1:14(29.8%)、C2:13(29.8%)人と多かった。入院患者は、老健対象者に比べて有意に自立度、PSが低くかった。 足部触知部位を模式図への記載と、触知部位をマーキングした状態の写真撮影によって記録した。左右鼠径部、膝窩部、足背部、踵部腓腹筋停止部付近内顆における動脈触知を、触知不可、グレード1-4で記録した。触知不可は、左右とも後脛骨動脈、足背動脈、膝窩動脈、鼠径部大腿動脈の順に多かった。足背動脈触知不可は37肢で、ドップラー血流計を用いれば全例で検出可能であった。文献的に示されている①母趾と第二趾の間の伸筋・腱の溝②母趾と第二趾の分岐部分③母趾と第二趾の分岐辺りから外側に広がる範囲では、多くは部位①であった。 ABIは、46人92肢中、2肢測定不可、最大1.814、最小0.322、中央値1.0、平均0.991±0.23であった。重症度分類で、ABI0.4未満重症虚血の疑い2肢、0.4-0.9軽度虚血疑い22肢、0.0-1.3正常62肢、1.3以上4肢であった。最大血流速度は、足背動脈(18.95±13.91m/s)は、後脛骨動脈(7.56±14.23cm/s)より大きい傾向であった。 入院患者については、NANDA-Iに基づく看護診断を患者状態の指標として用いた。歩行障害、移乗能力障害、活動耐性低下、非効果的気道浄化、非効果的末梢組織循環、言語的コミュニケーション障害等が多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
病院、老健に入院及び入所している高齢者46人を対象に、対象者本人または家族から研究協力の同意を得た。「CRF1動脈触知部位記入用紙」に基づき、下肢の動脈触知、循環の観察、携帯型ドップラー血流計を用いた下肢血圧、上腕/足首血圧比を測定し記載した。併せて「CRF2患者個票」を用い、電子カルテ、介護ワークシート、リハビリ記録、カンファレンス記録等の資料から対象者の日常生活自立度、併存症、治療の状況、日常生活動作、看護問題について情報収集した。事故や対象者からの同意の撤回等はなかった。 対象数は目標に到達していないが、自力歩行が可能な人、車椅子移乗が可能な人、終始臥床している人、コミュニケーションが良好に行える人、意識障害があり意思疎通が困難な人など様々な状態で、虚弱高齢者の中でも医療や介護依存度の高かった。当初予定していたドップラー血流計が旧型で、実際には当初予算で上位機種を入手した。リアルタイムで脈波を確認でき、最大拍動を安定的に得られる部位の特定が波形の確認と記録を以て正確に行えるようになったことから、脈拍検知の精度の検討は行わないこととした。ドップラー血流計で検知できる足背動脈の解剖学的位置により、「SOP測定の実施手順書」を見直し改訂した。測定されたABIから対象者の下肢虚血の可能性を評価することで25年度計画は概ね実行された。 対象者の背景疾患や病態については、収集された情報から今後データセットの生成を、看護問題や介護状況については、現時点では指標により得られたデータを基にしているが、虚弱高齢者の療養・生活状況を詳細に振り返り、痛み、日常生活動作や介護状況を記述していくことで、現在あるデータが補完され、背景要因や対象の生活状況などの深い分析が可能で、26年度計画を完遂できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で作成された下肢血流評価の実施手順書が血管障害患者や高齢者の看護にあたる看護師らが高齢者の下肢血流評価を行う際の実用可能性について検討する予定である。対象者では下肢虚血が示唆されたものの、日常生活自立度とABIの低下には統計的な関連性は認められなかった。今後は、下肢血流評価によって得られたデータと看護問題や介護状況との関連性を明らかにするための統計的な分析と、下肢血流が低下していた対象において、全身的な病態と看護問題の関連を詳細に検証し記述する予定である。 27年度には健康な高齢者、血管障害患者におけるABIと日常生活動作や看護問題、介護状況との関連を調査し、看護への有用性について検討する予定である。当初は、下肢の運動や筋力の改善指標としてのABIの有用性を想定していたが、これまでの結果により、下肢血流評価が末梢循環障害の検出に関して特異度が高いと考えられることから患者観察やバイタルサイン測定の一環としての下肢血流評価の意義を実証する試験を検討している。 25年度は成果の公表を行わなかったため、26年度はこれまでの測定結果、測定方法、ABIと背景要因や日常生活動作、看護問題の関連について、順次日本循環器看護学会、日本脈管学会、日本血管外科学会、Journal of Vascular Nursingへの学会発表、学術誌投稿を進め、看護師による下肢血流評価を促す活動につなげる予定である。
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